第百六十九話 覗き(エリ視点)
「ねぇ、今、ハルトがお風呂入ってるのよねー」
アイがギラギラした目で見てくる。あたしたちはリビングで冷たい飲み物を口にしながらお風呂の余韻に浸ってる。
「そうだけど、それがどうしたの?」
「行くわよ」
「どこに?」
「さっきの風呂に決まってるじゃない。せっかくだから見学に行かないと」
「あんた、何言ってるのよ。覗くつもり?」
「覗くつもりは無いわ」
「なら、良かった」
「堂々と見るに決まってるじゃない。ああ見えてハルトって細マッチョじゃない。その姿をしっかり目に焼き付けてくるわ!」
「よりたちが悪いわ。行かせる訳ないでしょ」
「アンタだって見たいでしょ。って、もしかしてアンタ、前に来たとき覗きまくったとか?!」
「そっ、そんな事する訳ないでしょ。あんたじゃあるまいし」
「今、どもったどもった。見てたのね」
「しょしょうが無いじゃない。たまたま用事があってチラッとだけなら……」
「たまたまに用事があって?」
「それ以上禁止、怒るわよ」
あたしは机の下のアイの足を軽く踏んでやる。さっきパワーアップしたからって調子に乗りすぎよ。
「痛い、痛いわね。怒るわよってもう怒ってるじゃない。って、モモ、あんたどこ行こうとしてんのよ」
見るとモモが浮いて音を立てずに部屋から出ようとしてる。
「すみません。ちょっと忘れ物して」
「忘れ物? で、何を忘れたの?」
あたしはじっとモモの目を見る。モモは私から目を逸らす。
「ちゃんと目を見て話しなさい。嘘なんでしょ」
モモの目が泳ぎまくってる。こいつもしれっとハルトを覗きに行くつもりだったんだろう。
「うっ、嘘じゃないですよ」
「じゃ、嘘だったら、あんたの羽根毟って、肉屋の手羽先みたいにするわよ」
想像してしまう。背中に大っきな手羽先をつけてるモモ。ん、なんかキモいな止めとこう。
「それは、嫌ですね。本当に忘れ物したんですよ」
中々、モモは強情。
「じゃ、何忘れたのよ」
「ちっ、ちむちむ」
ちむちむ? なにそれ? ちむちむ? ちん……ぶっころす!
「それ、元々ついて無いって」
アイが嬉しそうにツッコむ。
「あんたも要は覗きに行きたいって事ね。いいわ。二人がかりでかかってきなさい。あたしを倒したら好きなだけ覗きに行けばいいわよ」
あたしは入り口に移動して二人の行く手を塞ぐ。
「うわ、冗談ですよ」
「下品な冗談は嫌いよ」
「あー、エリ、本当はエリも見に行きたいんじゃないですか? ねぇ、その拳は下げて、みんなで仲良く見学にいきましょう!」
「ってあんた、正義はどうしたのよ。覗きは犯罪よ」
「覗きじゃなくて、いつも御世話になってるハルトの背中を流しに行くだけですよー」
「だから、ダメだって」
あたしは二人と対峙する。アイはパワーアップしてるから、魔法の威力が上がってるはず。そこさえ注意すれば負ける訳無い。
「いぎゃーーーーっ」
なんか遠くから叫び声。ハルトっ。どうしたの? あたしの頭に邪悪な妖精の姿が浮かぶ。やられた。あの危険生物の事を忘れてた。あたしは振り返ると、走り始める。
「大義名分が出来ましたねー」
ふよふよ浮いてついてきてるモモが言う。ちょっと言い当てられた感がある。
「うるさいっ!」
「嬉しいくせにー」
モモの上からアイの声。
「それどころじゃないでしょ」
あたしは加速する。守らないとハルトを邪悪な妖精から!
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