第百六十八話 闖入者
ちゃぽん。
ん、お湯が揺れる。ん、もしかして誰か入って来た? え、女の子? しかも裸?
「主様、失礼いたします。お疲れだと思いますので、マッサージして差し上げます」
えっ、この声この顔、パンドラ!!
「いぎゃーーーーっ!! ちょ、ちょ待ちなよ。何入ってきてんだよ」
僕は顔を背ける。
「ていうか、大っきくなれるのかよ」
「はい、見ての通り、変幻自在です。もっとも主様のマナをいただく事にはなりますけど」
「見ての通りって、ダメ、ダメだよ。見れないっつーの。ほら、パンドラは妖精だから知らないかもしれないけど、こういうのは恋人たち同士でする事だよ」
「はい、妖精だから知りませんけど、私は人間じゃなくて妖精ですから問題無いのかと。それに、わたくしめと主様は恋人よりも強く強く心の奥底で繋がってるから全く問題無いと思われます。家族で入浴してるようなものです」
そうなのか? 家族だったら一緒に入浴してもいいのか? もしかして問題無いのか? ん、けど、待てよ。家族と言えど、お父さんと年頃の娘が一緒に入浴するのはまずいんじゃ?
「ちょっとーーーーーーっ! なーにーしてるのよぉおおおおおおおーーっ!」
山の麓の方から響いてくる声。この声はエリ、エリだ。斜面や岩肌をものともせず、松明片手に駆け上がってくる。速い! 速すぎる。この山に慣れた僕でもああはいかない。もう目の前にやって来た。
「ぜはぁ、ぜはぁ。怪しいと思ったら、何してんのよ。パンドラ、あんたは妖精だから知らないかもしれないけど、そういうのは恋人同士でするものよ。出なさい、今すぐ虫に戻って出なさいよ!」
「何言ってるのかしら。お前が一番に出荷されたいみたいね。私と主様の至福の時間を邪魔するとは不届き千万! しかも私を虫ケラ呼ばわりしたわね。思い知らせてくれる。妖精流温泉闘術奥義! ウォーターガン!」
恐る恐るパンドラの方を見ると、胸の前で手を合わせて手水鉄砲の構えをとっている。向けてるのは小指側。どうでもいいけど、手水鉄砲には二つの流派がある。握手のように手に水を握って親指側から出す派と、指を交互に組み合わせて小指側から出す派だ。パンドラみたいに小指側の方が狙いは定め易いけど、いっぱい水をかけたいなら親指側がオススメだ。僕は狙いより水量と威力を重視するから親指側派だ。
ジュッ! ジュジュッ!
焼けた石に水が落ちて蒸発する時のような大きな音を立ててパンドラの手から水がエリに向かって伸びる。凄ぇ、連射する事で水量を増やしている。やるなパンドラ。多分彼女は今まで数え切れない程、手水鉄砲で遊んできたんだろう。
ん、エリが体を沈ませる。命中する。避けられないのか? そんな訳無い。今くらいのスピードなら、エリは楽勝でかわせるはず?
バシャッ!
水はエリの頭に命中する。体が流されそうになるがなんとか踏みとどまる。エリがそうなるって事は、パンドラの手水鉄砲ハンパねー。大人の男のパンチくらいの威力あるんじゃねーか?
エリはいいのをもらってたのに、松明片手に微笑む。光が下からだから怖ぇよ。
「あーあ、せっかくお風呂に入ったのに濡れちゃったー。暖まらないと風邪ひいちゃうかもー」
エリが上目づかいにチラチラ僕を見てくる。もしかして浴槽に入りたがってるのか。無理無理無理無理っ!
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