第百六十六話 露天風呂改2 (アイ視点)
「早く来ないと体冷えちゃいますよ」
でっかいお椀みたいな露天風呂から、モモが私を呼んでいる。って、これ怯むわよ。辺りが開けた所で全裸で梯子登るのは難易度が高い。私はシティガールなのよ。王都には様々な銭湯やスパやサウナがある。そのことごとくを踏破した銭湯マスターの私だけど、なんと露天風呂は初めてだ。夢にまで見た露天風呂。そのためなら、全裸で梯子なんか目じゃないわ。私は意を決して梯子を登る。体が濡れてるからスースーする。けど、何か嫌な予感がする。モモの笑顔がなんか気持ち悪い。企んでる時の顔だ。そのモモの前にはタコさんの頭みたいなのが二つ浮いている。奴の無駄脂肪だ。自慢しやがって。槍があったら突っつくのに。少しテンションが下がる。ステータスが上がったら少しは胸も育つかもって思ってたけど全く変わってない。
「あーあ、アイちゃんは『やっせんぼ』ですねー」
なんか聞いた事が無い言葉をモモが言う。読書百般の私が知らない言葉をモモが知ってる。その事に少しイラッとする。
「何よそれ、その『やっせんぼ』って」
「えっ、知らないんですか? もしかしてアイって、伝説の戦闘集団『サツマハヤト』の事知らないんですかー?」
「知ってるわよ。東方和国の南のとっても勇敢な侍でしょ」
「そう、その『サツマハヤト』の言葉で、意気地無しとかチキンヤローって意味ですよ。アイは本当に『やっせんぼ』ですねー。露天風呂なんかにビビってるんですから」
くっ。チキンにチキンって言われた。浴槽の中でタコさんの頭みたいなものが交互にプカプカ浮いている。挑発してるみたいだ。殴りてー。
入るわよ。それにそんな挑発されなくても入るわよ。どうせお湯が熱いとかそんなとこなんでしょ。お風呂で出来る嫌がらせなんてたかがしれている。
「いくわよ」
チャポン。
あ、温かい。ちょうどいい温度。って!
「あちあちあちあちあちっ!」
「ハハッ。思った通りのリアクションするのね」
エリの声がする。けどそれどころじゃない。浴槽の底についた足が熱い。足を上げたら、お尻が熱い。手をついたら手が熱い。
「ゴボボボッ。ゲホッ」
つい、頭まで浸かってお湯飲んじゃったよ。モモの出汁入りのお湯を。そうだモモっ。
「なっ、何するんですかっ、って、あちちちちちっ」
私はモモにしがみつく。ふう、やっと熱さから逃れられた。モモは一瞬沈んだけど、浮き上がった。
「ちょっとー、離れてくださいよ。私にはそんな趣味無いんですよ」
「ケチケチ言うんじゃないわよ。アンタ、水にも浮けるのね。私の浮き輪代わりになりなさい。それに、言いなさいよ、底が熱いって」
チャポン。隣にエリが入ってくる。
「あんたたち、大人しく入りなさいよ。子供じゃあるまいしはしゃぎ過ぎよ」
奴は普通に石の底に座ってるし、縁に肘をついて持たれかかっている。
「ほら、見なさいよ。来て良かったでしょ」
辺りを見渡すと、夕日に照らされてまるで夢の中のような風景が広がってる。
「いい景色ですねー。アイが抱き着いて無ければ最高なんですけど」
モモがしみじみと言う。
「私だって好きで抱き着いてる訳じゃないわよ。けど、絶景ねー。それより、エリ、熱くないの?」
私は縁を触ってみる。
「あちっ」
1秒も触れないって事は70℃以上ある。普通の人間は火傷するはず。
「ステータスの耐久が30超えたら火傷しなくなるわよ。あたしだって最初はめっちゃ熱かったわよ。少しは悪戯心もあったけど、あんたたちにも耐久30は超えて欲しいのよ。そしたら、この露天風呂を満喫できるわ」
そう微笑むエリの笑顔はとても魅力的だった。けど、エリは100℃以上ある岩に座っても火傷しない、鋼のお尻を持つ少女だ。要は化け物だ。
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