第百六十五話 露天風呂改1(モモ視点)
「じゃ、あんたたち行くわよ。ハルト、先にごめんね」
エリが席を立って、ウィンクして片手で祈るようにハルトに謝り、部屋から出ようとする。
私たちは、戻るとハルトが準備してた夕食をいただいた。さすがにアイはお腹いっぱいで少し口にしただけ。だから私がアイの分は有り難く頂いてあげた。飛ぶのってお腹が減るのよね。だから、出来るだけ飛んで今の理想な体型を維持している。それにしてもハルトのご飯は美味しい。別にハルトに炊事を任せようとしてる訳じゃないけど、先手先手で用意されてるから、どうしても甘えてしまう。
「じゃ、何か分かんないけど行ってきます」
私も立ち上がる。エリが私たちだけを呼んでるって事はハルトに見聞きして欲しくない何かがあるんだろう。
「えー、待ってよ。もう動きたくないわ。私はここで寝る」
なんかアイがわがまま言ってるから、しょうがないので、アイに近寄って背中を向ける。
「おんぶー、おんぶー」
アイは嬉しそうに乗っかってくる。なんか最近、この娘の乗り物になってるような気が。
「それで、何するんですか?」
私たちは夕焼けに染まる山を登っている。
「まあ、ついてからの楽しみよ。あんたたちが先に入っていいからね」
入る? 入るものって言ったら、多分、お風呂じゃないかしら。なんか前にエリがさらりと絶景の風呂に入ったって言ってたような。
山頂に着くと絶景、まさに絶景だった。眼下には島の全貌が広がっている。ここが島では1番高いとこで、周りは途切れない水平線に囲まれている。夕日側の海は赤くそこから徐々に暗くなって反対側は暗い青。綺麗、綺麗すぎる。
「やーっほーーーーっ」
私から降りたアイが叫ぶ。
「ほぅほぅ……」
声が響いて伸びていく。
「反射するものがないから、やまびこは聞こえないわね。あんたたちこんな話知ってる? 山で叫んで、やまびこで違う言葉が返って来たら、死ぬって噂」
アイが嬉しそうに話す。この娘、頭の中どうなってるんだろうか? 私でさえ景色に感動してるのに、何で面白くも無い都市伝説の話をしてるんだろうか?
「はいはい、十分に山頂を満喫したわよね、で、あれ、なーんだ?」
エリが指さしたとこに湯気を上げている岩がある。ゴツゴツとしたなお椀のような形をしてて、お湯を湛えている。
「スープ?」
アイがボケる。どうも彼女は満腹でいつもの賢さが仕事してない。
「何言ってんのよ。たしかにスープのお椀に見えるけど、近くに行ったら、あんたが入れるくらいの大きさがあるわよ」
と言う事は露天風呂?
「お前たち、のんびりしてないで、早く来るのよ!」
お椀の方から声がする。妖精パンドラだ。ここまで結構距離あるのに、よく声がとどくもんだ。私たちはそっちへ向かう。
「なんか大っきくなってる。それに洗い場も出来てる。ハルト、仕事早すぎでしょ」
エリが驚いてる。お椀型の浴槽は梯子が架かっていてちょうど3人入れる広さはありそうだ。浴槽の下には窯があって火がくべてある。そしてその横には石畳があってどうやら洗い場のようだ。洗い場には木の椅子と手桶まである。
「特別に私がかけ湯もシャワーもやってあげるから、とっとと服を脱ぐのよ」
妖精はそう言ってるけど、私でも怯む。私たちしか居ないのは分かってるけど開放感がヤバすぎる。けど、そんなの気にせずにエリはスポポポンと脱いで服を岩にかけて、妖精からお湯をかけて貰って体を洗ってシャワーして貰ってる。さすが王族。いつも侍女とかに傅かれていたから、人前で脱ぐのに躊躇いが無いんだろう。つい見惚れてしまう。エリ、プロポーション良すぎでしょ。まるで、神殿の彫刻みたいだ。それに、妖精、凄すぎでしょ。自由自在に目の前からお湯を出してる。この妖精、もしかして温泉の妖精?
「ちょっと、あんたたち、ぼーっとしてないで早くしなさいよ」
私とアイは目を会わせると、エリよろしく服を脱いでかけて、妖精にかけ湯してもらって体を洗う。妖精凄い、私とアイを同時進行している。
「先に入っていいわよ」
エリはどうやら私たちを先に入らせたいらしい。けど、私はこの風呂を見た途端違和感に気付いた。五右衛門風呂なのに、浮き蓋が無い。お風呂の底はめっちゃ熱いはず。多分エリは一度やられている。熱い底に触れて痛い目見たんだろう。それを私たちにも体験させてそのリアクションを楽しみにしてるんだろう。私は飛んで浴槽に入る。
「うぅ、しみるー」
おお、最高だ。絶景の中浸かるお風呂。温度は少し私にはぬるいくらいだ。エリが驚いた目で見ている。残念ですね。私は飛べるんですよ。私の飛行は羽根によるものじゃなく、どうやら魔法的な力みたいなので、なんと水中でもいける。私はドヤ顔でエリを見返してやる。
「アイ、早く来なさいよ。暖かいわよー」
いっつも口が悪いアイちゃんはどんなリアクションするのでしょうか? キシシシシシッ。
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