第十六話 海上 (エリ視点)
「ハルトー、ちょっと、ちょっとだけ左ーっ」
あたしは声を張る。水音が大きいから、小声じゃ掻き消されちゃう。
「分かったー。左ねー」
多分ハルトの左足の方が少し力が強いのかも。微妙に進路が東に寄りがちだ。
「ちょっと、ちょっと左すぎー、少し右ーっ」
今度は西に寄り過ぎてる。けど、少し西寄りなら問題無いかも。前にハルトが地面に書いてくれた地図ではかなり東にズレない限り、大陸には着くはずだ。
けど、なんか悪い気がする。ハルトはあんなに一生懸命にバタ足してるのに、あたしは偉そうに座って指示を出してるだけ。けど、多分あたしが代わりに泳いだとしても大して役には立てない。正直凄すぎる。下手な魔道推進器よりハルトの方が速いんじゃないだろうか? それに、そもそもあたしの救命艇が無くても1人で島から脱出できたんじゃないだろうか? ハルトの言葉ではポートカインからスライム島まで、激安の魔道連絡船で半日、12時間くらいかかったそうだ。うん、多分その半分くらいの時間で大陸に着くんじゃ? そう言えばいつの間にか日時計ではもう3時間くらい経っている。
「ねぇーっ。ハルトー、休もうよー」
「そうだねー」
ハルトは泳ぐのを止めて船を伝って筏へと上がってくる。
「はい、お水」
あたしは樽からお椀についだお水を差し出す。まさかあたしが人に水をついであげるなんて、昔は夢にも思わなかった。けど、嫌な気分じゃない。
「ありがとう。ぷふぁーっ。生き返る」
ハルトは一気に飲むと、手足を筏に投げ出す。
「ハルト、無茶しないでよ。しばらくしっかり休んでね」
次は干物を出してハルトに渡す。相変わらず豪快に骨ごとボリボリ食べる。あたしは残ったフルーツをいただく事にする。
「ハルト、フルーツ要らないの?」
「食べ飽きたからいいよ。エリ、好きでしょ」
「うん、ありがとう」
ハルトはあたしにフルーツは全部譲ってくれる。なんか悪い気がする。フルーツの正体を話した方がいいかな。けど、本当の事知ったら、ハルトはあたしを置いて遠くへ行ってしまうかもしれない。あたしに今頼れるのは彼だけだ。今はまだ黙っとこう。あと、フルーツも全部海で食べてしまおう。売ったらお金には困らなくなるかもしれないけど、絶対にハルトの事がおおやけになる。
王国に着いたら、お金に困るかもしれないけど、あたしは大金貨を一枚ポーチに入れてたから、数日はなんとかなるはず。
ハルトは冒険者に戻りたいって言ってたから、それでなんとか生計は立てられるはず。
「エリ、少しだけ休むよ。ちょっと眠らせて、1時間くらいで起こして」
今はポカポカしてて温かい。体はすぐに乾くと思うから、風邪ひいたりはしないだろう。ハルトは直ぐに寝息を立て始めた。毎日髭を剃るようになったから、幼げな顔がある。こうして見てると普通の男の子にしか見えない。あたしは少し不安になる。ハルトのステータスは異常だ。それとなく色々良識常識を教えてはきたけど、自信は無い。もしかしたら、あたしはとんでもない怪物を世に放とうとしてるんじゃないのか?
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。