第百五十三話 壁(アイ視点)
「そんな大したものじゃないけど、入って入って」
ハルトに促されて私たちは崖に空いた洞窟に入る。んー、洞窟って言っても何て言うか人工物感がハンパない。崖にちょうど10メートル四方くらいのピカピカした謎材質の壁があり、そこには一枚の木で出来た扉がついている。壁の謎材質を触ってみるひんやりしててつるつるでカチカチだ。岩なんだろうか? けど、それならハルトが崖に埋め込んだって事? いや、魔道重機とかがこんなとこに有るわけないし、もしかしたらハルトの事だからなんかマニアックな魔法とか特技とか持ってるのかもしれない。分かんない事は聞く。これは魔法使いの常識。
「ねぇ、ハルト。その壁、なんで出来てるの?」
「ああ壁ね。見て分かるでしょ。土だよ土」
「えっ? 確かに色は土みたいだけどこんな土、街には無いわよ。それに土がこんなに固い訳ないじゃん」
「さすがアイ。気づいてくれて嬉しいよ。面倒くさかったけど、少しは家っぽくしてみたよ。なんか崖に穴が空いてるだけじゃ動物の巣穴や迷宮の入口っぽくて入り辛いじゃない。それにエリやモモは体に土が付くの嫌がるし」
私は壁をコツコツ叩く。モモなんか興味津々で飛び上がって剥き出しの土と壁の境界をいじってる。
「それで、どうやってやったの?」
「手で叩いて固めたんだよ」
うそ、人力、物理かよ。エリが結構力入れて壁を殴ってるけどびくともしない。
「ちょっと、エリ止めてよ。せっかく綺麗にしたのに崩れちゃう」
「ごめんなさい。つい」
やっぱり王女はヤバい。ついで壁を殴る女の子はそうそう居ねーよ。
「それより、早く中に入ってよ」
ハルトが扉を開けて中に入っていく。エリが近くに来て呟く。
「多分、ドラゴン並みに固いわ。前はただの洞窟だったから、さっき作ったのよ」
私は壁を見渡す。ただ壁を叩いただけでドラゴン並の強度の壁を作るっていったい……もしかしたら、ドラゴンよりハルトを封印した方が世のため人のためなんじゃないだろうか? 一種ハルトを島に置き去りにする事を考える。けど、意味無いだろう。すぐに泳いで脱出してくる事だろう。私は関わってはいけないものについて来てしまってのでは無いだろうか?
ポケットの中から折りたたみ式のナイフを出して壁を切りつけてみる。何度やっても傷一つつかない。剃刀並の切れ味だった刃は指でなぞっても傷つかないくらい鈍くなってしまった。
ナイフ、捨てよ。あとついでに私の常識も捨てよ。多分、考え込んだらおかしくなってしまう。おばかになって楽しもう。うん、それしか無い!
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