第十五話 脱出
「じゃ、出発するよ」
僕は舟に手をかける。大丈夫だろうか? 不安がよぎるけど、それを押し殺す。
「こっちは準備オッケーよ」
エリが舟の中から手を上げる。太陽のような笑顔。不安は微塵も見えない。強いな。
エリの格好はここに流れ着いた時の格好だ。なんか寂しいけど、さすがに王国でいつもの格好だったら只の痴女だ。ココブラは王国に持って帰って僕の宝物にしたかったんだけど、エリは無情にも昨日のお風呂の後、窯にくべて僕のお風呂の再加熱の燃料にしてしまった。けど、僕の心の中にココブラを装備したエリの姿は永遠に残る事だろう。
ここは島の北にある砂浜。舟の下には丸太を敷いていて、それが海まで繋がっている。確かコロと言うやつだ。昔、城壁を補修してる時に見た事があった。
桟橋に舟を浮かべてから出発しようかと迷ったけど、あそこは南にあるので、ここから出発する事にした。僕もエリも舟を操縦した事はないから、出来るだけ方向転換したく無かったからだ。変なとこに向かってしまうかもしれない。
舟は壊れていた所を木で補強して、船首から向かって右手に筏と丸太で繋いでいる。舟と筏に積んでるのは、まずは僕の手製の日時計。木の板に棒を立てて目盛りを書いた簡単なものだけど、水平にしたらその影の長さと角度で方向が分かるようになっている。昼はこれでエリにナビして貰いながら進み、夜は北極星をエリに見て貰いながら進む。日の出日の入りの時は休憩する。
エリたっての願いで、フルーツは全部積み込んだ。と言ってももう10個くらいしか無いけど。あと、コツコツ作り貯めていた魚の干物と煮沸した水を木をくり抜いて蓋をした僕特製の樽に入れて筏にくくりつけている。ぴっちりと蓋をしているから、水漏れはしない。これも試行錯誤しながらコツコツと作り貯めていた。理論上は海の上で一ヶ月は暮らせるはずだ。
「おおーりゃー」
舟を転がして着水して押していく。海に足、腰、胸まで入ったとこで、僕も浮かんで発進だ。
バチャバチャバチャバチャ。
僕は泳ぐのは苦手だ。けど、バタ足くらいなら出来る。補修した時に舟の後ろにつけた取っ手を掴み、バタ足で進んでいく。今の船についてる魔道推進器と比べたら心許ないけど、流されるより進んでいたら、一ヶ月もあれば大陸に流れ着くはずだ。
航海は命がけだ。補修した救命艇と手作りの筏。当然これまで検証はしてきて安全なはずだけど絶対じゃない。その事はエリにも話したけど、僕の事を信用してるって言ってくれた。なにがなんでも大陸へと帰ってみせる!
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