第百三十四話 ドリンク
僕はリクライニングのシートを倒す。そうだ、空、空を眺めよう。雲一つ無い真っ青な空は僕の心を癒してくれる。
右手にはエリ、左手にはモモ、そして頭の方にはアイが居る。甲板は広さがあるのになんでこっちに集まってるんだろう。船が心なしか傾いてるような? けど、かなり良い船なんだろう。ボボボボと音はするけど揺れは驚く程少ない。まあ波のおかげで多少は上下するけど。しかもこの船をひと月借りると言う。エリ的には送迎を依頼して帰りに船が来ない事を恐れてるようだ。まあ、その時は筏を作ればなんとかなりそうだけど、作るのに時間がかかるし漕ぐのは面倒くさいから船を借りるに越した事は無い。ちなみにそのお金はゴーレムの魔石を売って賄ったそうだ。船を傷つけたり壊さないように気をつけないと。魔道エンジンと水の精霊によるオートパイロット機能付きの船。壊して弁償になったら一生借金地獄だ。
少し喉が渇いたから、隣のテーブルに置いてる飲み物に手を伸ばす。なんと、この船には雪の精霊に力を借りた、魔道冷蔵庫というものが設置さるている。飲み物はいつでも冷たいし、氷まで作ってくれる。もしかしたらこの船は貴族のものの払い下げなのかもしれない。船の横腹になんか紋章を上から塗り潰したような跡もあるし。
「あ……」
口から声が漏れる。僕は急いで手を引く。間違ってエリのコップに手を伸ばしてちょうど伸びてきたエリの手に触れてしまった。その柔らかさに迂闊にもドキッとしてしまった。
「ごめん、間違っちゃった」
「いいわよ、おんなじ飲み物だったから紛らわしいわよね」
エリは胸の前で僕に触れられた手を押さえてる。なんか顔が赤い。僕も顔が熱いから多分赤い。うぅ、駄目だ。こう言う空気は耐えられない。僕はエリの胸の方を見てた事に気付く。いや、手、手を見てたんだ。
「他のみんなは何飲んでるのかなー」
白々しく反対側のモモを見る。
「……」
凄ぇ。椅子に座りながら本読んでる。左手の羽根でパラソルをもって、右の羽根で自分を煽いでる。左手で本を持って、右手でページをめくってる。そして、なんと、胸の谷間にドリンクのコップを挟んでる。いや、挟んでるんじゃない。握っている。たまに胸が上に動いてストローを口に運んでる。なんか、ネズミとかのげっ歯類が両手で食べ物とかを挟んでみたいだ。どうでもいいけど、キンキンなドリンク、そんなとこに挟んで冷たくないのか? けど、見なかった事にしよう。どんな言葉を使ってもコンプラ的によろしくなさそうだ。
「どうしたんですか? ハルト、飲みます?」
モモがこっちを向いてグラスを差し出してくる。胸で……
「もむかっ! ばかっ!」
「何エロい事言ってんですか。私は飲むかって聞いたんですよ」
げっ、言い間違えたような。
「だから、飲まないって」
「そうですか。キンキンに冷やしたミルク美味しいですよ。いつでも私のミルク飲みたくなったら言っていいですからね」
「あ、ああ」
何も言えないな。煽ってるのか? ツッコミ待ちなのか? と見せかけて天然? 何も言わないがベストだろう。
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