第十三話 入浴 (エリ視点)
チャポン。
あたしは岩風呂に勢い良く入る。ああ、温かい。
「あっあちっ……」
あたしは叫びそうになるのを手で口を押さえて耐える。ハルトが来ちゃう。岩風呂の底の岩は耐えられ難いほど熱い。そりゃそうだ直火で焼いてるんだから。あたしは即座に底を蹴って、梯子に戻ろうとする。
「あっ!」
あたしが勢い良く触れた梯子は外にむかって倒れていく。も、戻れない。岩風呂の縁を触るがここも火傷するくらい熱い。詰んだ。あたしは岩風呂の中にプカプカ浮かぶしか無い。
温かい。良いお風呂だわ。下に足がつければ。あたしは膝を抱えて丸まって背中を上に浮いている。顔もお湯につけないと体のどっかが岩風呂に当たって痛い目をみる。息継ぎの時だけ、熱いの我慢して一瞬体勢を変えて頭をあげる。その時だけ辺りの景色も見えるがそれどころじゃない。あたしは何かの拷問か罰でも受けてるのか? ああ、お風呂、楽しみにしてたのに、こんなにしんどい事になるとは……
そう言えば、こういう風なお風呂には木の『すのこ』とかを沈めて周りに直接触れないようにするってなんかで読んだ気もする。ハルトはどうやってたんだろう? あ、そっか、そのまま入ってたのね。火でも焼けない体だし。
けど、どうしよう。火が消えて温度が下がるのを待つしかないの? さすがにハルトを助けに呼びたくない。この体勢を人に見られるのはちょっとしんどすぎる。お風呂に入る時に頭まで浸かる変な人と思われかねないわ。
多分30分くらい不毛な時間を過ごして、やっと底が足をつけるくらいの温度になった。正直、溺れるかと思った。けど、今は最高な気分。なんでも苦労して手に入れたものは素晴らしく感じるのかもしれない。辺り一面に広がる景色。あたし自身も自然の一部になった気分だ。自然が綺麗なんだろうか? それとも人って自然を綺麗に思えるように出来てるんだろうか? そんな事を考えながら岩風呂の中で回って全方向を眺める。掬ったお湯を放り投げてみる。キラキラと飛沫が輝く。最高、最高だわ。さっきまで浮かんでた時間が無かったら。もっと入っときたいとこだけど、なんか指先がふやけてきたような気もする。あんまりぬるくなったらハルトに悪いから浴槽から出る。ハルトのシャツで体を拭いて服を着る。
「ハルトー。上がったわよー」
下の森までは結構ある。さすがに聞こえなかったんじゃと思ったけど、下からハルトがダッシュでやって来る。言いたい事はあるけど、ハルトはあたしのために準備してくれた。
「ハルト、ありがとう」
「どういたしまして。女の子ってやっぱりお風呂大好きなんだね。長く入ってたみたいだし」
好きで長く入ってた訳じゃないやい! うん、決して悪気は無いはず。
「そうだね。大好きだョ」
足の裏がヒリヒリする。少し火傷したかもしれない。
「ちょっと、浴槽が熱かった。なんとかならないの?」
つい、口に出してしまう。
「そっか、女の子は敏感だから、熱いのか。なんとかするよ」
って、敏感じゃなくて、普通の人はあの温度は無理だよ。そうだ、あたしもまずは『耐久のミカン』を重点的に食べて耐久を増やそう。そうじゃないと多分ハルトに振り回されてまた痛い目を見そうだ。手が黄色くなりそう。けど、ミカン食べすぎて手足が黄色くなっても害は無いから問題無いわ。