第百二十九話 演技
「それではイリスさん、アピールお願いします」
モモが上空から声を張る。どうでもいいけどモモはワンピースみたいな服で飛んでるからパンツ見えるかもと思ってたけど、絶妙に見えそうで見えなかった。それで、やっと見えたと思ってたらスパッツ穿いてやがった。
「ええっ、アピールぅ。私は見ての通り神官です。そんな人に自慢出来るような事なんて無いですぅ。強いて言うのでしたら、癒してあげる事が出来ます。怪我しても私の愛情たっぷり詰まった回復魔法でっ」
あれは誰だ? イリスは高い可愛らしい声で、なんかモジモジしながら言ってる。さっきと比べて23歳若くなったんじゃと勘違いしそうになる。見ての通り神官って、服、ボロボロだから良くて変質者、悪くて痴女にしか見えないけど。
「あんた、手遅れよ。さっき大声で男大好きっ! とか叫んでたじゃない」
エリがツッコむ。モモを捕まえるのは諦めたみたいだ。
「キャッ。怖ーい。イリスはそんな事言ってません。イリスわぁ、男の人とは手を繋ぐだけでもドキドキなのにぃ」
イリスは演技を続けるみたいだ。僕の後ろに隠れるような仕草をする。このフォーマルになった途端の化けっぷり。さっきまでチンピラみたいだったのが嘘みたいだ。昔は僕の前ではずっとこうだった。追放されるまでは。コロッと騙されてた。なんか腹立ってくる。
「嘘つきなよ。何度もハルトの手を引っぱってたじゃない。緊張の欠片も無く。さっきまでの周りの人達も見てたから今ごろ猫被っても遅いって。そのムカつく態度止めてよ。ぶん殴りたくなるわ」
相変わらずエリさんは拳で解決しようとしている。
「仮面のお姉さん。怖ーい。ぶん殴るなんて。今わぁアピールタイムでしょう。ハルトもムカつくと殴るって言ってるのと変わらないと思いますぅ」
もう、我慢出来ない。僕は一言もの申す。
「それはブーメランなんじゃない? イリスは僕に何をアピールしようと思ってるの? 私は表と裏が激しく違う人間って事のアピール?」
「ハルト酷いわ。私はシルバークラスの冒険者だから、みんなが見てる前では、みんなが望む言動をしないと。私たちは人々に夢を与える存在だから」
「そうか。けど、僕は嫌だな。本音と建て前が違いすぎるのは。この人本当は何考えてるんだろうって思ってしまう。それに、真実の愛が力とお金って言ってたけど、僕はそうは思わない」
「ハルトが変えて欲しいって思う事はなんでも変えるわよ」
「表面だけはでしょ? 僕より力もお金も持ってる人を探しなよ」
僕の言葉になんかイリスの表情が曇る。
「嫌なの。私は嫌なの……」
イリスは俯いて黙り込む。えっ、逆にこんな態度取られると困る。言い過ぎた?