第百二十六話 因縁の対決
「僕なんかが居ても、なんの役にも立たないだろ。だから、捨てたんだろ」
思ってた事を口に出す。なんでしつこくジェイルは僕を呼び戻そうとしてるんだろうか?
「ああ、そうだな。だが、おめーが居ねーと、金目なものが落ちねーんだよ。おめーは安全に暮らせる。俺らは金に困らなくなる。いいことしかねーだろ」
まじか、僕の泥率アップは少しは役に立つのか。けど、僕は只の金策要因なのか……嘘でも、打算じゃなくて僕自身に価値を見いだしてくれてるって言ったなら、心が動いたかもしれない。金だけなのか……
「僕は、さっきは、少しだけ、お前たちについて行ってもいいかなって思ってた。けど、やめた。僕は、僕はお前たちにはついては行かない。金がそんなに好きなら、自分たちで稼げ。クソヤロー」
「ああ、大好きだ。けど、おめーの意思は関係ねー。そこのクソ強い嬢ちゃんが言っただろ。おめーをぶっ倒したら連れて行っていいって。けど、俺は鬼じゃねー。おめーから先に一発殴らせてやるよ。ほーら、ほら、殴ってみな」
ジェイルが僕に顔を近づけてくる。ムカつく奴だな。勝てる勝てないは別にして、望み通り一発ぶっかましてやる。その後ボコられるかもしれないけど、これはプライドの問題だ。僕は拳を握りしめる。
「ハルト! 拳はダメ。平手にしなさい! 手加減きなさい! 死んじゃうわ」
エリが大声を出す。ぶん殴ってやりたいけど、その後に報復される事を考えたらエリが言う通りだ。グーパンかましたら後で怒り狂ったジェイルに殺されかねないな。
「ジェイル! 歯を食いしばれ!」
僕はジェイルに軽くビンタをかましてやる。まあ一発入れられただけで少しは溜飲が下がる。
びったーーーーん!
いい音。けど、なんか音が鈍めだ。
「うんぎぇらぽっぽっぽー」
なんか奇声を上げながらジェイルが吹っ飛んでいく。くるくる回りながら。大袈裟だなー。めっちゃやられたフリをして、後でえげつない報復するつもりか?
ズザザザーーーーッ!
派手な音をたてながらジェイルは地面を滑っていく。おお、名演技だ。昔聞いた事がある。舞台のショーとかのアクションでは、やる側よりやられる側の方が技術がいると。さすがジェイル。シルバーランクのやられっぷりだ。
慌ててイリスがジェイルに駆け寄る。これも演技のセットなのか?
「あんた何やってるのよー。ジェイルがいいって言ったからってやり過ぎでしょー!」
イリスが一心不乱に回復魔法をジェイルにかける。ジェイルが目を開けるが焦点が合ってない。
「ママー。痛かったでちゅー。なんかちょっと出ちゃったよー。って、あれ? 夢じゃねーのか?」
ジェイルが酔ったかなようにフラフラと立ち上がる。なんか変な事口走ってたようたけど。聞かなかった事にしとこう。
「くそったれ。なかなかやるじゃねーか。俺はドラゴンのおかげで本調子じゃねー。今日のとこは見逃してやる。俺の気が変わんねーうちにとっとと消えやがれ」
「おいおい、何言ってんだー? それなら俺が代わりにやってやる」
バートンが頭ペチペチしながら近づいてくる。
「おいおい、バートン。おめーも本調子じゃねーだろ」
「それなら、私がやってやるわ」
「ミレ、おめーも魔法全部使っちまっただろ。装備もやられちまったし」
ジェイルは起き上がり、前に出ようとするミレのボロボロな服を引っ張る。
僕の前にイリスが両手を組んで跪く。なんなんだ?
「私は今気付きましました。本当はハルトの事を愛してるって事を。仲間、いいえ奴隷のようなものでもいいからハルトのそばに置いてくれないでしょうか?」
潤んだ目で上目遣に僕を見ている。なんなんだ。ボロボロな神官衣からは下着も見えててエロい。奴隷? 僕が昔求めてやまなかったイリスが僕の奴隷? 心臓がヤバい。