第百二十四話 先送り
「ハルト、大丈夫?」
エリが駆け寄ってくる。一瞬ドキッとする。マスクにビキニは心臓に悪い。
「ああ、大丈夫だ。エリは」
「大丈夫よ。ハルトがドラゴンに何かしたの?」
「何もしてないよ」
金色の粉を撒き散らしながら妖精が飛んでくる。
「魔法、魔法よ。凄い魔力を感じたわ。さっきの星が落ちて来たのよりも」
魔法? 魔法なのか? という事はドラゴンを倒したのか?
「怪我人を集めろ。回復魔法が使える者は、重症の者から癒してくれ」
第一王子が声を張る。何が起こったのか分からないけど、取りあえず動く。エリは妖精から予備の服を出してもらって着てる。
ドラゴンのブレスを食らった者は意外にもそこまで酷くはなかった。装備してるものは黒い炭みたいになってるが、体の露出してた所が火傷のようになってるだけで、命には別状は無いみたいだ。ただ、第二王子だけはドラゴンに弾かれたお陰で数ヵ所骨折してた。気を失っていて、いつの間にか来ていたゴーレム使いのおっさんがその世話をしている。少し思うとこもあるが、アイツにちょっかい出すのはドラゴンの事が分かってからだ。
来た時は全員武装してたのだけど、ブレスを食らった者はほぼ下着姿で酷い事になっている。そして、全員集まった所で王子が話し始めた。
「勇敢なる冒険者と騎士諸君。ドラゴンは居なくなった。だが居なくなっただけだ。爺、説明を頼む」
ジャラジャラ爺さんが前に出る。
「ドラゴンはとても強力だった。今の所ほぼ犠牲者が居ないのは、ブレスで武器や鎧を破壊して柔らかくして食べるためだったんじゃろう」
まじか、ドラゴンって人を食べるのか。辺りを見渡す。薄汚れて日焼けし過ぎた様にみえるむさ苦しいおっさんや兄ちゃんばかりだ。僕がドラゴンなら絶対食べない。
「わしが持っていた。ノヴァの杖も効かなかった。今のわしらでは倒せる方法が無かった」
そんなの見てた全員分かってるはず。もったいつけずに何をしたのか早く教えて欲しい。
「じゃから、わしは、根本的な解決にはならんが、王家の秘宝、『その場しのぎの指輪』を使った。ドラゴンをとばしただけじゃ」
ん、と言う事は、ドラゴンをどっかに移動させたって事か?
「グリム殿、ならドラゴンは戻って来るんじゃないか?」
誰かが僕も思ってた事を言う。
「ああ、戻ってくる。じゃがそれは一ヶ月後じゃ」
「なんで、一ヶ月後ってわかるんだ」
また誰かが問う。多分騎士だろう。
「『その場しのぎの指輪』が対象を送るのは未来。ドラゴンを一ヶ月後のここに送った。同じ事はもう出来ない。指輪が使えるのは一回きりじゃからな」
えっ、まじか、名前の通り、まんまその場しのぎだな。
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