第百二十一話 勝利?
ゴォオオオオーーーーッ!
まるで風が吹き荒ぶような音。また僕は吹っ飛ばされる。
「グェッ」
僕に押し倒されたアイが女の子らしからぬ声を出す。背中が生温かい。直ぐにそれも感じなくなる。今度は一瞬だけだったみたいだ。直ぐにアイの上からどく。アイはフラフラ立ち上がる。
「かばってもらってなんだけど、なんか他に方法は無いの……」
ブチブチ文句言ってるアイの言葉が止まる。多分、僕と同じものを見ているのだろう。魔法の跡を。
視界の脇に立ち上がる人たち。僕は見渡す。仲間は無事だ。魔法の威力は破格だったけど、巻き込まれた人は居なさそうだ。2回の衝撃で吹っ飛ばされただけみたいだ。みんな土埃まみれで髪の毛はボサボサだ。地面に轍みたいな跡とかもあり、みんな激しく吹っ飛ばされたみたいだな。僕らは倒れるくらいで済んだけど、よりドラゴンに近かった人は悲惨だ。立ち上がった人たちもみんな魔法の跡を凝視している。
そこには煙を上げる黒い塊。ドラゴンとしての原型を既にとどめてない。まるで、大きな焚き火のあとみたいだ。その表面から大小の塊が剥げ落ちて地面に当たり砕けていく。肉が焦げたような臭いが鼻をつく。距離があるここでこの臭いって事は近くはすごい事になってるだろう。
「クゥワーーーッカッカッカッ! 倒した! たおしたのじゃーーーーっ! わしの魔法がドラゴン! ドラゴン!」
動物、強いていうなら鳥系のような奇声を上げながらジャラジャラ爺さんが両手を振り回している。大丈夫か? 結構年取ってるように見えるけど。
本当にドラゴンは死んだのか? 伝説では殺す事が出来なくて封印されてたって話だったよな。なんか上手く行きすぎてる。上手く行って悪い事は無いんだけど、僕は基本的に大事な事は何事も無く上手く行った試しがない。
ギシリ。
なんか音がした。軋むような音。ここまで聞こえるって事はかなり大きい。踊ってた爺さんも止まる。
バリバリバリッ!
何かが裂けるような音。間違いなく、ドラゴンだったものからだ。小山の真ん中に亀裂が走る。そして、小山は二つに割れていく。亀裂から覗く光沢がある黒いもの。亀裂が大きくなり、中がよく見えるようになる。鱗、鱗に覆われている。まじか、あんなに激しい魔法に曝されたのに、まだ生きてたのか……
そして、崩れ落ちた炭の中からドラゴンが現れる。しかもおかしな事にさっきより大きくなってる。
「脱皮……古いドラゴンは脱皮して成長するって。不味いわ。あの大魔法でも脱皮した皮でさえやれなかったって事は……」
アイの声は震えている。冒険者や騎士、それに宮廷魔道士の爺さんが頑張ってダメージを与えたのが蝉の抜け殻みたいなものだったって事だよな。しかも、抜け殻を壊しきれなかった。
どうする? どうしよう? 逃げる以外の選択肢を思いつかない。
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