第百十六話 ドラゴン
「グゥオオオオオオオーーーーン!」
余りにも大きな咆哮に耳を塞ぐ。
森を抜けるとそれは居た。
なんだあれは。
小山?
艶の無い黒い物体。まるでそこだけ夜になったみたいだ。
10メートル、20メートル。いやそれよりも大きく見える。
僕らが来た時には大木を咀嚼してたのだが、その目が僕らを捉えた途端、首を上げ大きく吠えた。
あんなの人間が倒せる訳無いだろ。アレを倒す? 王子は何を考えてるんだ?
今のたった一吠えで、ほとんどの冒険者は地に伏した。気を失った者、蹲ってガタガタ震える者。戦いにすらならない。ドラゴンとの距離は百メートルはある。今なら逃げられる?
「ハルト、ヤバくなったら助けてね」
僕の肩を軽くエリが叩く。駆け出すエリ。まじか、やる気なのか?
「抜け駆けは許しませんよ」
モモが飛んでついて行く。
「待ってー」
妖精もついて行く。
「ぴーひゃりひゃりらー」
気の抜けたオカリナの音。
「バナーヌ。私たちはサポートよ」
アイがバナーヌを呼び出している。僕は横に居るアイに、素直な疑問をぶつける。
「なんで、なんで戦おうとするの? こっ、怖くないの?」
「へっ? 何言ってるのハルト。あんなのただのデカいトカゲでしょ。ハ、いえ、私たちが知ってる化け物に比べたらあんなの可愛いものよ。エリが突撃したって事は倒せるって事よ。あの娘、鑑定持ちだから」
あ、そうだよ。エリは鑑定で正確に敵の強さも分かるんだった。何にでも考え無しに突撃してるような気がするけど、正確に彼我の戦力を把握してるんだな。アイが言ってる化け物ってなんだろう? エリツーの事か?
「バートン、守りは頼んだ。行くぞ」
ジェイルも走り出す。
「デラックスブースト」
ミレの手から放たれた光がジェイルに吸い込まれる。急にジェイルが加速する。エリに追い着く勢いだ。多分オリジナルの強化魔法だろう。
仲間たちは怯まずにドラゴンに向かい、ジェイルたちでさえ戦おうとしてる。なのに僕はなんだ。こんなとこで何してるんだ。確かに僕は非力だ。でもでも、ここで行かないと大事な何かを失ってしまう。
「うぉおおおおおおーーーっ!」
僕は叫ぶ。叫ぶ事で恐怖で竦んだ体に活を入れる。腰に下げた木刀を手にする。こんなの気休めにしかならないけど、目とか口とかに刺す事なら出来るだろう。
「行くぞっ!」
僕も戦う。少しは何かの役には立てるはず。
「ダメよっ。終わってしまうわ」
アイが僕の服の裾を握る。終わってしまうか……うん、僕は直ぐに死んでしまうかもしれない。けど!
「行かないで。そうよ。ハルトにはやる事があるでしょ。怪我した人を魔法で癒さないと。せっかくのでっかいドラゴンなんだから、みんなにも戦わせてあげて。ハルトはまだ早いわ」
せっかくのドラゴン? ハルトにはまだ早い? なんか言い回しがおかしいような気もするけど、アイは僕には戦いよりサポートが相応しいっていってるんだな。まあ、僕のヒールは良いヒールだからしょうが無いか。
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