第百七話 勇気
「イリス、手を離してくれ。なんで僕がお前らと一緒に行かないといけないんだ。お前らが僕に何をしたのか思い出せよ」
僕は強気にイリスを振りほどく。強気なのは虎の威を借る狐ってやつだ。今、僕の腕をエリが握ってる。今の所、エリは僕を味方してくれてる。女の子に頼るのは情けないけど、アイツらが武力行使に出たらエリがなんとかしてくれるはずだ。
出て行きかけたジェイルたちが戻ってくる。こちらにはモモとアイと妖精パンドラが近づいてくる。
「……変態の同類にはなりたくないけどしょうが無いわね」
アイがブツブツ言ってる。変態はアイツらで僕は違うっつーの。
「何をしたかって、ふざけて海に放り込んだだけじゃない。海に遊びに行ったら盛り上がったらそれくらいするでしょ?」
イリスはきょとんと小首を傾げる。何が悪かったのか分かんないって感じだ。言い方が悪意に満ちてる。なんかそれじゃ、ビーチで遊んでた時の悪ふざけに僕が文句言ってるみたいじゃないか。
「悪ふざけで済む話じゃ無いだろ。あと少しで僕は死ぬとこだったし、1年間、1年間も何も無い島に取り残されたんだよ」
「ガーッハッハッ。そりゃ災難だったなー。お前あんなとこに1年もいやがったのか? ばかじゃねーか」
バートンが禿げ上がった頭をペシペシ叩きながら前に出てくる。もう片方の手には大きな戦斧がにぎられてる。笑ってはいるが目が笑って無い。
僕は一歩後退る。知っている。奴が頭をはたいてるのは怒りを我慢してる時だ。僕が逆らったのが気に食わないんだろう。
「ハルト、何そんな見かけ倒しのタコ入道にびびってるんですか。ぶっ飛ばせばいいじゃないですか」
モモが僕の肩を叩く。何言ってるんだ? あいつをぶっ飛ばされる訳無いだろ。ぶっ飛ばされるのは僕だ。
「ほう、おもしれー冗談だな」
バートンの頭に青筋が浮かぶ。
「ハルト、あんたサーカスでもするつもりー」
ミレも加わってくる。
「ガキと鳥と虫。冒険者って言うより色物地下アイドルね。脱げば人気出るんじゃなーい?」
うっ、言い返せない。確かに僕らは冒険者に見えない。
「そこの魔女。虫って私の事か?」
うわ、妖精オコだ。
「鳥じゃなくて天使です。痛い目みたいようですね」
「私の事ガキって言った? あんたも変わらないじゃないの」
シルバークラスの冒険者相手に僕の仲間は噛みつく噛みつく。怖いもの知らずなのか?
ドンッ!
誰かがテーブルを強く叩く。ジェイルだ。
「おめーら。グダグダうるせーよ。ハルト、おめーに聞いてんだよ。ついてくるよな。おめーは賢いだろ。せっかく仲良くなった姉ちゃんたちを泣かせたくねーだろ」
脅してるのか? ついて来なかったらエリたちを襲うって。僕は情けない男だ。どうなるかは分からない。酷い目に会うかもしれない。けど、やっぱりこいつらは許せない。震える心を怒りで塗り替える。拳を握り締め震えそうになるのを止める。
「断る! 彼女たちに指1本触れてみろ。僕が許さないからな!」
僕は握った拳を目の前に掲げる。
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