第十話 BBQ (エリ視点)
「エリは、ゆっくりしててョ。まだ、疲れてるでしョ」
ハルトは慣れた手つきで石を集めて『コ』の字型に組む。かまど? 薪を中に立てたからかまどなんだろう。どうやって火を点けるのかな。
「あたし、『着火』の魔法を使えるから点けてあげようか? え!!」
あたしの目の前でハルトが薪をこすりつけたと思ったらもう火が点いてた。魔法が使えない人は、火打ち石や、木を擦り付けて摩擦で火を点けたりするそうだけど、コツがいって結構時間がかかるって聞いた事がある。今、薪と薪を擦り合わせただけだったよね。松明みたいに燃えてるし。
「エリ、『着火』の魔法使えるんだ。すごいね。今度教えてョ」
「いいわョ」
って、絶対この人には『着火』の魔法は必要ないでしょ。ハルトが何本か火を点けた薪をかまどに入れる。良く燃えてるなー。
「何してるの?」
ハルトは薪の一本をまるでチーズを裂くかのように爪をかけて千切ってる。普通の人間には逆立ちしても出来ない芸当だ。やっぱ軽く辞めてるよ人間。
「串作ってるんだョ。魚を刺すやつね」
「そう、串ね……」
あたしは深く考えるのは止める事にした……
ハルトは潮だまりの魚を取り出し、軽く指で鱗を取ったと思ったら内臓を取り出し捨てて串を刺す。
「鱗取りとか、包丁とか無いの?」
「石で作ったのは有るんだけど、手の方が早いよね」
「そ、そうね」
って、人間は指で魚の鱗は取れません。
「ねぇ、熱くないの?」
ハルトは串に刺した魚に塩を振って火で炙り始めたんだけど、間違いなく指も一緒に焼けている。
「この島での暮らしも長いから、大丈夫だョ。少し指の皮が分厚くなんたんだろね」
分厚くなっても普通燃えます。これが耐久288。耐久が上がり過ぎたら少しの火じゃ燃えなくなるのね……
これはまずいわ。ハルトを人間社会に復帰させる前に、まずは一般常識を教えないと目立ち過ぎる。貴族や騎士団に囲い込まれてしまう。そしたらあたしの手の届かないとこにいっちゃう。
「どうしたの? 焼けたョ。食べよう」
香ばしく焼けた魚をハルトが差し出してくる。すっごい良い匂い。生まれて始めて食べる。物語とかでは魚をこうやって食べるというのを読んだ事はあるけど、あたしが食べた事があるのは皿に乗ってるのをナイフとフォークでだ。どうやって食べるんだろう。このまま噛み付くの? はしたないけど、今のあたしの格好はもっとはしたないからいっか。
「ハルト、ありがとう。いただきます」
お魚さんの背中に噛みつく。
「はふ、はふ。あつい」
うわ。めっちゃジューシー。ちょっと小骨が気になるけど、これは美味しい。こんな美味しいお魚始めて。なんで城ではこういう料理の仕方をしなかったんだろう?
「ねぇ、ハルト、大っきな骨はどうするの?」
「骨? ああ気になるなら吐き出せばいいよ」
ハルトは魚を頭から噛みつく。え、この魚大きいから頭の骨固いんじゃないの? そのままパクパクと尻尾まで食べていく。
「ハルト、串! 串!」
確かお魚には串が刺さってたよね?
「ハルト、木の串食べたんじゃないの? 吐き出したがいいんじゃ?」
「エリ、何言ってるんだよ。幾ら僕でも間違って魚と一緒に木の串まで食べたりしないョ」
そう言ってハルトは串をヒラヒラしてるけど、明らかに串は短くなってる。これが力251。んー、どうやってハルトに常識を教えようか……
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