メンヘラとクズ
「メンヘラ」、「クズ」が出てきます。トラウマのある方はごーばっくです。
「ねぇ、これ。なに?」
そうして持ち上げられる金に染められた毛。恐らく髪の毛だ。
もちろん心当たりはある。それを認めるかは話が違うけど。
「さあ?風で外から入ってきたんじゃない?あ、それどこにあった?ちょうだい、オレが捨てとくよ」
彼女が帰ってから念入りに掃除したはずなんだけどな。
「……の下」
ほとんどつぶやき声のよう声量で、何についての返答なのかもわからなかった。聞き返そうとするともう一度口が開かれた。
オレは背筋が凍った。
「シャンプーボトルの下……お風呂場にあったの。どういうこと?」
「は?いやなんでそんなところに。違う、そーだなー!風呂場の換気したときに入り込んだのかもしれないな。捨てとくよ」
そういいながら苦し紛れに手を伸ばす。
「あのねケイちゃん。ワタシの何が満足できなかったの?ねえお願い教えて?全部直すから、顔も、体も、人間関係も、全部。全部ケイちゃんの好きなようにしていいから!」
涙声のせいで後半はもうなんて言ってるのか分からなかったけど、たぶん「好きにして」みたいなことを言っていたのだろう。
正直こうなるとめんどいんだよなー。
「その髪の毛は換気中に入ってきたものだし、カナに直してほしいことなんてないよー」
「うそっ!絶対うそっ!この部屋に女の子連れ込んでるケイちゃんがカメラに写ってたんだから!ワタシのなにがダメなの?」
ソファに押し倒される。オレに馬乗りになったカナは服を脱ぎ始める。
「ケイちゃんがほめてくれたからこの体型を維持してるんだよ?愛してるって言って。安心させて。」
カナの上半身から目をそらしながら言う。
「愛してる。当たり前だろ」
「どうしてワタシを見てくれないの?魅力的じゃなくなった?ワタシはもういらない?」
あーだめそう。めんど。
「んなわけないだろ、うるさいな。さっさとそこどけよ、今日は出かけなきゃいけないからよ」
体にかかっていた体重が軽くなった。大人しく聞く気になったのかと視線を戻すとカナの眼が濁っていた。
実際は黒目だから違いとか無いけど、明らかに平生とは違う、力がこもっている。こういう目をしたときは決まってオレが刺されちまう。包丁ならキッチンまで取りに行くだろうからベランダから……と考えていると。
カナはテレビの前に置かれたローテーブルをから何かを持ち上げた。
「ごめん」
そういいながら振り返ったカナの手にはよく切れそうなハサミが握られていた。グーで。
「しくった」
先週のオレ、こうなるからリビングに刃物を残しちゃいけないんだ。尾を引く後悔が頭を渦巻きつつ、愛をまた確認する。
ああ、愛されるってサイコー。
愛っていいものですね。
「現代こしょこしょ裏話、金髪は自作自演だし、カメラに映った人影は語り部の妹(教えてない)だし、服は一枚脱いだけど裸か分からないし、え?どっちが♂♀どっち?」