表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【SF 空想科学】

そのアンドロイドは心を持たない。

作者: 小雨川蛙
掲載日:2024/08/23

 

 耳を澄ませば微かに聞こえる彼の命の音。

 しかし、それは刻一刻と弱まっていく。

 ほんの数十秒前、私に向けてくださった言葉を脳で再生する。

『ありがとう。ずっと傍に居てくれて』

 彼の手を握る。

 もう握り返してくれる力もない。

『ありがとう。僕を愛してくれて』

 何故か繰り返し再生される、つい先ほどの彼の言葉。

『ありがとう。僕を許してくれて』

 あぁ、目の前の彼をずっと見ていたいのに。

 私の脳は煩わしいほどにあなたの言葉を求めている。

 そして、それが叶わぬ故に機械的に再生が繰り返されてしまう。

 何故か分からない。

 けれど、それが抑えられなかった。


 彼の音が弱くなる。

 終わるのだ。

 そう悟った私は最早意識のない彼に口づけをした。

 直後。

 彼は永遠に失われた。

 そう悟った。

 私は彼が生前教えてくれた死者に捧げる祈りを行い、少しの間だけ彼の死から逃れるようにして目を閉じた。

 何故か分からない。

 けれど、今、この瞬間には自分にとってこの時間が必要なのだと感じていた。


 やがて、私は立ち上がり外に出る。

 彼は生前によく言っていた。

『眠るならこの場所で眠りたい』

 故に私はシャベルを手に取り穴を掘る。

 掘り続ける。

 何故か分からない。

 ただ、土を掘り返すこの時間が不思議なほどありがたかった。


 やがて、出来た穴に私は彼の遺体をそっと横たわらせた。

 彼は穏やかな表情を浮かべていた。

 そう思いたかった。

「博士」

 何故呼びかけたのかか分からない。

 故に、私はすぐに成すべきことをした。

 段々と埋まっていく彼の体を見送るのが奇妙なほどに苦しかった。


 穴を埋めた後、私は彼が好きだった花の種を蒔いた。

 きっと、そうすれば彼が喜ぶだろうと思ったから。

 種の上に水を蒔き、その後、僅かな間だけ彼の眠る場所を見下ろす。


 そして。

 やや迷った後。

「博士。ありがとうございます」

 私は無意味なことを口にしていた。

「私に心を造らないでくださって」


 明日も。

 明後日も。

 明々後日も。

 体が完全に動かなくなるまで、ずっと彼の墓を手入れしようと心に決めた。

 それが何故か、苦しく思えた。

 けれど、きっと気のせいなのだろうと思いなおした。

 無機質な機械に心などあるはずもないのだから。


 私は踵を返し心細いほどに静かな彼の家へ戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ