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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第93話

「で、斉藤くんはどうなの?」


 女子高生の接客を波瀬がしており、店内にはその女子高生以外見当たらない。

 千奈津と斉藤は雑談に興じ、波瀬に文句を言われないよう、商品を整えている振りをして話を続ける。


「どうって」

「凛ちゃんとデートしてきたんでしょ?」


 斉藤は頬を赤く染め、袖で口元を隠す。

 落ち込んでいないところを見るに、デートは上手くいったようだ。


「その、また出かけることになりました」

「三回目のデートだね」


 先日の斉藤を思い出す。

 酷く落ち込み、ネガティブな言葉ばかり並べていた。

 しかし、二回目のデートが成功し、自身がついたようで、斉藤は顔を赤くしながらもどこか嬉しそうだ。


「ね、ネットで見たんです」

「何を?」

「その、告白のタイミングは、三回目のデートだと」


 ごにょごにょと小声で、恥ずかしそうに言う斉藤の声はきちんと千奈津の耳に届いていた。

 確かに、初回のデート時に告白するよりも三回目の方がいいのは分かる。

 剛馬とはアルバイト仲間であり、三回もデートをすればそろそろ告白を考えてもいい頃だ。

 その話をしたということは、斉藤はつまり、剛馬に告白しようと考えているということだ。


「告白するの?」

「身の程知らずとは思ってますが、でも、駄目元でやってみようかなと」


 あの斉藤が告白をする。

 千奈津はかなり衝撃だった。

 あの斉藤である。

 「クソリア充め」などと勤務中に呟いていた斉藤である。

 その斉藤が恥ずかしそうに、告白をするなどと言っているのだ。

 剛馬に恋する前と後で、斉藤は随分変わった。


「いいじゃん」

「こ、断られるのは分かってますけど、なんというか、人生で一度くらいは告白してみるのもいいかなって」

「斉藤くん、変わったね。いい意味で」

「あれから色々考えたんです。僕は如月さんにはなれないし、いい男ではないけど、男なら一度は勝負すべきかと思いました」


 なんか斉藤くんが恰好いい。

 千奈津は目を丸くして斉藤を凝視する。

 その視線に気づいた斉藤は、俯いてぶつぶつ呟き始めた。


「告白が成功する可能性は極めて低いですが、でも、一度くらいはそういう経験をするのもいいかなと思ったんです。人を好きになるって、僕には初めてのことなので、もう二度と人を好きになることがないかもしれないし、だったら当たって砕けてみるのもいいかなと。剛馬さんは美人だし、僕が隣に立ちたいと大声で言っていいような人ではないのですが、何もせずただ傍にいるのは、なんだか卑怯な気もしてですね。僕は如月さんにはなれませんが、でも、如月さんみたいにはなりたいんです。如月さんだって、好きな人ができたら告白すると思うので、僕も如月さんみたいに、自分から告白をしようと決めました」


 ブツブツモードに入っているのは格好よくないが、内容としては男らしさがあり、斉藤を変えた剛馬を褒め称えたい。

 斉藤が如月を尊敬しているのは感じていたが、ここまでくると最早如月師匠である。

 千奈津は、如月が各方面から好かれているのだと改めて実感した。


「ちょっと、ちゃんと仕事してください」


 波瀬が千奈津に向かって言い放った。

 舌打ちでもしそうな表情を向けられ、「あ、はい」と返すしかなかった。


「バックヤードで作業してきます」


 波瀬は斉藤に言うと、扉を開けてその場から姿を消した。

 千奈津にだけ「ちゃんと仕事してください」と言うのが波瀬らしい。あんなことがあったのに、相変わらずの態度だ。肩身が狭そうにするのかと思いきや、自分の思うままに行動している。如月が絡むと自重するようだが、それ以外は変わらない。


「ところで、三回目のデートはどこに行くの?」


 波瀬が寄ってきたことにより、斉藤は般若の顔をしていたが、千奈津がデートの話に戻すと、聞いてくださいとばかりに詰め寄った。


「それが困ってるんです。映画は観たし、カフェも行ったし、他にどこへ行けばいいんですか?」

「うーん、デートの定番は遊園地とか……水族館、とか?」

「レベルが高すぎます。そもそも、遊園地なんて乗る時間より待ち時間の方が長いですし、水族館は……ありかもしれません。重森さんたちはどこでデートしたんですか?」

「えっ、あー、水族館」

「やっぱり水族館はなしです。如月さんの真似をしたと思われたくないですから」


 本当に、斉藤は変わった。

 剛馬や告白のことを一生懸命考え、デート場所について悩んでいる。

 千奈津も力になろうと頭を回転させるが、剛馬と斉藤が行きそうなデート場所というのがなかなか思いつかない。二人がどんな場所を好むのか、知らない。

 デートでありがちなのは、遊園地、水族館以外だと、ドライブやショッピング、少し遠出して観光だろうか。


「うーん、屋内か屋外か、近場かそれとも遠出するか。凛ちゃんはどこにでもついてきてくれそうだけどね」

「……やっぱり、自分で考えます」

「え?」

「だって、告白しようと思ってるデートなのに、重森さんにアドバイス貰うのは、なんか違う気がします」


 本当にお前は斉藤か。

 本日何度目かの衝撃である。

 つい先日は「デート」の単語すら言えずに恥ずかしがっていたではないか。人はこんなにもすぐ変わるのか。それともこれが、斉藤の真の姿なのか。

 千奈津は無性に、「あの斉藤くんが凛ちゃんに恋して変わったよ! あの斉藤くんが! あの! 斉藤くんが!」と剛馬に向かって叫びたくなった。

 ネガティブな斉藤が、こうも前向きになるとは、恋の力は侮れないものだ。


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