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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第85話

 翌日のシフトで、如月は波瀬の行動を注視したかったのだが、波瀬に視線をやろうとすると、既に波瀬が如月を見つめており、如月は波瀬を盗み見ることすらできなかった。

 以前より波瀬は如月に好意を持ち、如月の一挙一動を見逃すまいとしていた。如月もそれを知っていたからこそ、波瀬へ視線をやることはなかった。

 井上から聞いたストーカーの話のことがあり、波瀬がじっとこちらを見てくるだけで鳥肌が立つ。

 千奈津が気を利かせて波瀬との間に何度か入ってくれ、死角を作ってくれたのが救いであった。


 そんなことなど露知らず、波瀬は如月へとすり寄る。

 今までは綺麗に受け流していた如月だったが、波瀬がストーカー行為をしていると知ったため、引き攣った笑みで接していた。


「先輩、なんだか久しぶりですね」

「そうだね」

「何をして過ごしてましたか?」

「何って、普通に」

「えぇー、何それ。真面目に答えてくださいよー」

「はは」


 如月はどうにか波瀬から離れたい様子だったが、波瀬はどこまででもついてくるので逃げることはできず、結局レジの前に立っていた。

 その中に千奈津も入ると波瀬の鋭い眼光で「こっちへ来るな」という圧をかけてくるため、遠巻きで二人の様子を窺っていた。

 女子高生がレジへやってくると如月が対応し、女子高生の頬が赤く染まる。それが気に入らない波瀬は冷めた表情で女子高生を睨みつける。

 しかし、女子高生の視界には如月しか映っていないため、波瀬のことなんて気にも留めていない。


「ありがとうございました」


 如月が笑顔で対応すると、女子高生は満足そうに店を出て行った。

 波瀬は如月に対して「接客が優しすぎます。あの女子高生が勘違いしたらどうするんですか?」と頬を膨らませながら、上目遣いで問う。


 勘違いしているのはお前だろう、と千奈津は喉まで上がってきた言葉を吞み込んだ。


「接客は笑顔が大事だよ」

「そうですけど、先輩の笑顔は破壊力抜群なんです。あまり見せない方がいいかと思いますよ。女子高生が先輩に好かれたかも、って勘違いしちゃいます」

「はは、それはないかな」

「いいや、あるんです。先輩は自分のこと全然わかってませんよー」


 もう、と一層むくれた表情をする波瀬だが、如月は一度も波瀬の方を見ない。

 ただ正面を見据えている。


「そういえば、この前ダリアリングっていう映画を観たんですけど、先輩も観ました?」

「えっ、観たけど」

「やっぱり! あの映画、先輩が好きそうだなって思ってたんですよ。あたしたち好みが一緒ですね」

「はは、そうかな」


 如月の中で、波瀬に対する嫌悪がむくむくと大きくなっていく。

 何故、その映画を観たことを知っているのか。答えは一つ。如月が映画館へ行くのを見ていたからではないか。如月が鑑賞する映画を観ようと、後をつけて、如月のいる空間で、波瀬も観ていたのではないか。

 違うのかもしれないが、そんな勘繰りをしてしまう。


 それは千奈津も同様だった。

 その映画を波瀬が観たのは、ストーカーをしていたからではないか。

 必死に後を追いかけた賜物ではないか。


 ストーカーと並び接客をする。

 如月は今どんな心境だろう。

 千奈津は考えたが、愚門であった。嬉しいはずがない。きっと気持ち悪いだけだろう。

 一刻も早くこの場から去りたいと思っているはずだ。

 しかし、閉店まであと二時間も残されている。

 それまでは我慢しなければならない。


 如月とは、波瀬の押し付け合いをしたことがあった。

 互いに波瀬と同じ空間にいたくないので、こそこそと「千奈津ちゃんが行ってよ」「嫌だよ、如月くんが波瀬さんのところに行って」というやり取りを何度かしたことがある。

 だが今回はさすがに如月が可哀想だ。

 助けに入りたい気持ちはあるのだが、入ってしまうと波瀬から不興を買う。

 千奈津が間に入ることで、「先輩はあたしのだ」という気持ちを刺激し、その結果、今以上に如月と距離を詰める恐れもある。

 千奈津に奪われまいと、如月の隣をキープすることに必死になるだろう。

 それを考えると、今の状態を放置しておくのが最善である。


「そういえば、この辺りに新しいカフェができるみたいなんです。できたら行ってみませんか?」

「うーん、これから勉強が忙しくなるし、どうなるか分からないな」

「たまには息抜きも必要ですよ。興味ありませんか?」

「そうだね」

「そうですか、残念です。まぁ、来月にできるみたいなので、そのときになったらまた声をかけますね」


 どうしてもそのカフェに行きたいようだ。

 カフェくらい女友達と一緒に行けばいいのに。

 千奈津は如月に、哀れみの視線を送ることしかできなかった。


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