第80話
めそめそしている斉藤は、二人はお似合いだと何度も繰り返す。
如月としては、美形と美形が並べば釣り合っていると思うのは当然だ。ただ、互いに恋愛感情はなく、バイト仲間としての認識しかない。
顔が整っている人間は、大体自分が美形であることを自覚している。類は友を呼ぶと言うが、まさにその通りで、美形には美形が寄って来る。美形に近づきたい人間も寄って来るため、美形もそうでない人間もわらわらとやってくるのだ。そうすると、外見にこだわりはなくなる。まったくこだわらない、ということではない。デートの場にめかしこむことなく、ダサい恰好で来られるとさすがに嫌だと思う感性くらいはある。外見にこだわりがない分、性格を重視する。それは剛馬もそうだろう。
「斉藤くん、剛馬さんのタイプ聞いたの?」
「いえ、そんな話はしたことありません」
「斉藤くんは俺と剛馬さんをお似合いだって言うけど、お互いタイプじゃないし、本音を言うと好きでもない人と一緒にいるところをお似合いだねって言われても、全然嬉しくないしむしろ嫌なんだけどな」
本音だった。
いくら如月と剛馬の外見が優れているからといって、お似合いだと言われても微塵も嬉しいとは思わない。
「あ、そ、そうですよね、すみません」
「まぁ、剛馬さんの好みを聞いたりするといいよ」
「でも、僕がそんなこと言って、剛馬さんが不快な思いをしたり、気持ち悪がられたら……」
どうしてもネガティブになる斉藤の気持ちが分からないわけではないが、ネガティブすぎである。
「あのね、それくらい世間話だよ」
「世間話?」
「好きなタイプは何ですか? どういう映画が好きですか? 休日は何をしてますか? どれも世間話だよ」
「でも、もし、好意がばれたら」
「その程度で、この人もしかして私のこと好きなのかな、って思うのは自意識過剰だよ」
「そ、そうですかね」
「好意がばれたとしても、その時はチャンスだと思って頑張るしかないね。意識してもらうように行動するんだよ」
斉藤のネガティブをどうにかしようと前向きな言葉で元気づける。
「待ってるだけじゃ、好きになってもらえないよ。振り向いてほしいなら行動を起こさないと」
その言葉は斉藤に響き、じっと如月を見つめる。
「如月さんは、行動を起こしましたか?」
「へ?」
「重森さんへのアピールのために、どういうことをしてるんですか?」
参考にするのだろう。斉藤の瞳が輝いている。
如月は自身の行動を振り返るが、振り向いてほしいという思いから積極的に行動した記憶はない。
「そ、そうだなぁ、まぁ、デートに誘ったり、奢ったり、かな」
嘘ではない。
斉藤と剛馬の後を追うためデートに誘ったことがある。
「なるほど、例えばどういうことに気を付けてますか?」
「一緒にいるときはスマホをなるべく触らない、相手の話は小さなことでも覚えておく、反応をさりげなく観察する、とか」
千奈津に限った話ではなく、一種のコミュニケーションだ。
人と付き合っていくのに大切なことなのである。
「あの、今度、また映画に行くんですけどそのときは奢った方がいいでしょうか?」
「奢られた方が嬉しいだろうけど、程々がいいよ。剛馬さんのことだから、割り勘にしようって言いそうだけど、好感度を狙うなら奢るそぶりくらいあるといいかも」
と、言ったものの、如月が千奈津に奢った際は「ラッキー」と千奈津の顔に書いてあった。
手ごたえはなく、恋愛対象として意識している感じではなかった。
奢ればいいというものではない。
ただ斉藤なら、奢ればいい感じに進んでいくだろう。
顔が整った女は周りにたくさんいるが、デートの話になった際によく言うのが「男が奢らないのならそれはデートとは呼ばない」だ。金を出す価値もないと暗に言われているようだし、何よりも、奢らない男よりも奢ってくれる男の方が多いのだから、態々前者と一緒に出掛けようとは思わない。と言っていた。
一理あるなと思う。
奢ってくれない男よりも、奢ってくれる男の方がいいのは当然だろう。
二人で出かけて毎回割り勘の上、告白されたとしても、女側は「こいつずっと割り勘だったくせに何言ってんだ?」と思ってしまうらしい。
奢る奢らない論争は今日もどこかで繰り広げられているだろう。
「次は、デートらしさを出してみます」
「おぉ、その意気だ」
「映画館もランチ代も僕が出します」
「前回はどうだったの?」
「ぜ、全部割り勘でした」
「じゃあ次はランチを割り勘でいいんじゃない?」
「映画館も僕が出した方が、デートっぽくないですか?」
「そりゃあそうだけど、剛馬さんの方が年上だし、斉藤くんが全部奢るとなると剛馬さんは気にすると思うから」
「な、なるほど」
人差し指を顎に当て、「難しいな」と呟く斉藤は、どうやら吹っ切れているようだ。
次のデートがいつなのか知らないが、二回目のデートも尾行しよう。と、いう名目で千奈津をデートに誘おうと思った如月だった。




