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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第78話

 斉藤が立ち直っている、わけがなかった。


 先に出勤していた千奈津と如月は、出勤してきた斉藤を見るなりぎょっとした。

 どんよりと沈んでいる斉藤は陰気を纏っている。

 明らかに落ち込んでおり、体調が悪そうだ。

 鬱にでもなったのかと千奈津は心配した。

 斉藤が如月を視界に映すと、みるみるうちに表情が変化する。

 その表情がなんともいえない。怒っているのか、驚いているのか、悲しいのか、千奈津には判別できなかった。


 如月はそんな斉藤を前にし、何と声をかけようかと迷った。

 「大丈夫?」と言いたいがどう見ても大丈夫ではない。


「……お疲れ様です」


 斉藤は如月と目が合うと挨拶をした。

 その挨拶は普段より声は小さく、低かった。

 如月は自分のせいで斉藤の気分が落ちているのだと思うと、罪悪感で胸が痛む。


 のろのろと動く斉藤を、二人は黙って眺めていた。


 視線に気づいた斉藤は片方の口角のみ上げて笑ってみせた。

 果たしてそれが自嘲なのか、それとも無理やりつくった笑顔なのか、二人には分からなかった。


 斉藤はレジの前に立つ二人の元へ歩み寄る。


 如月は昨日考えていた言い訳よりもいいものをひねり出そうと頭を回転させ、千奈津は如月の援護と斉藤のフォローのためにどう立ち回ればよいかを考える。


「如月さん……」


 店内では旬のアイドルのポップな曲が流れているというのに、斉藤から発せられている重たい空気が勝り、店内はどんよりと暗い。

 ゾンビのような斉藤を前にし、如月は一体何を言われるのかと緊張気味に「何?」と訊ねる。


「どうしたら如月さんみたいになれるんですか」


 今にも瞳から涙がこぼれそうな斉藤。

 千奈津と如月は、唇をかみしめてぷるぷる震える斉藤が子犬のように見えてしまう。


 斉藤の性格上、自嘲するのかと思いきや縋るような表情になり、哀れになった如月は、なんとかプラスな言葉を喉から引っ張り出そうとするが、出てこない。

 そもそも斉藤とは系統が違う。

 性格も、趣味嗜好も、見た目も、掠っていない。


 どうしたら如月になれるか。

 残念ながら如月はその質問に答えることはできない。

 斉藤は如月になれないし、如月は斉藤になれない。

 見た目だけならどうにか寄せることはできるだろうが、性格や趣味嗜好までは真似できない。


 それをそのまま斉藤に伝えると傷つけてしまう。


「斉藤くんはそのままでも素敵だよ」


 くさい台詞になってしまった。

 それは斉藤も思ったようで、「嘘を吐くな」といいたげに口元が歪んでいる。


「ね、千奈津ちゃん」


 どう答えたらいいか分からなかったので、千奈津に振った。

 しかし千奈津は奥へひっこめと親指でバックヤードを指した。


 店内には客が一人、二人と足を踏み入れている。


「海老原くんの気持ちを理解した」

「そ、そう。じゃあちょっと、店頼んでもいいかな」

「どうせ客はあまり来ないんだから、いいよ。でも閉店間際には戻ってきて」

「了解」


 海老原と同じことを言うと、如月は斉藤を連れてバックヤードへ行った。


 客が少ないので店員は三人も必要ない。それがバイトの本音だ。

 しかし、本社がそう決めているので仕方がない。

 斉藤と如月がいなくとも、千奈津一人で対応可能だ。

 二人がどんな話をするのか興味はあるが、野次馬はよくない。

 客さえ来なければ、私も話に参加できたのに。という思いがないわけではない。ないわけではないが、我慢だ。

 斉藤は如月に意見を求めているのだから、不要な自分は接客をしなければ。

 でも気になる。


 バックヤードを気にしながら、そわそわしていると客がレジまでやってきたので笑顔を張り付ける。


 どんな話をしたのか、あとで如月に聞きたいが、よくない行為だ。

 他人のプライベートなことに首を突っ込むなど、デリカシーがない。

 でも気になる。


 千奈津は耳を大きくしてバックヤードの音を拾おうとするが、当然拾えるはずもなく、店内に流れるポップな曲が耳に流れてくるだけである。


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