第77話
「と、いうことがあっただけでデートではないよ」
「デートかどうかは微妙なところね」
「デートじゃないでしょ」
「見方によってはデート」
「デートじゃない」
デートではない、と頑なに主張するので千奈津は「分かった分かった、それでいいよ」と投げやりになる。
剛馬は千奈津に言わないでほしい、と如月に念押ししたらしい。それを知り、千奈津は罪悪感を抱いた。
裏切りだ、と如月を問い詰めたのは自分であるが、そんな話だとは思わなかった。
三角関係の始まりだと危惧したのだが杞憂であった。
「ところで、どうして知ってるの?」
「波瀬さんが写真を見せてくれたよ」
「波瀬さん? 写真?」
「二人が楽しそうに並んで写っている写真。斉藤くんもその場にいて、ショック受けてたよ」
「えっ、波瀬さんに写真撮られてたの?」
うっわ、と顔を顰める如月に同情する。
「斉藤くんには申し訳ないことをした。そうか、デートに見えるよなー」
デートという認識がなかった如月のことがなんとなく分かる。
如月はこれまで女と出かけることはよくあったのだろう。友達が多いように見受けられるので、女友達と出かけることは特別なことではない。だから今回も、デートとは思わなかった。
剛馬の気持ちも分かる。
好きな男以外と並んで歩いたとして、それをデートだとは思わない。
ただ「知り合いの男と出かけている」としか認識しない。
三角関係ではないと知った今、双方の気持ちが分かるので、斉藤へのケアが難しい。
斉藤は二人の関係が色恋だと勘違いしているはずなので、フォローをしなければならない。どうやってフォローしようか。本当のことを言うわけにはいかないので、千奈津は頭を悩ませる。
「ねぇ、本当に、なんで盗撮されたのか分かる?」
如月は芋虫をかみつぶしたような顔を千奈津に向けた。
「偶然遭遇したって波瀬さんは言ってたよ」
「偶然? 本当に?」
「私もそれはちょっと思った」
偶然、如月と剛馬が歩いているところに遭遇して写真を撮った。そんなことがあるのか。ないとは言い切れないが、確率はかなり低いだろう。
「俺、ストーカーされてる?」
「どうだろう」
千奈津はこの間のことを思い出す。
波瀬がばれないように、こっそりバイト先に来ていたこと。
そしてその日、剛馬と如月のシフトが被っていたこと。
あれもストーカー行為の一つだろうか。
いやいや、プライベートな時間をバイト仲間に見られたくなかっただけだろう。
無理やりそう結論付けた。
「本当に、あいつは余計なことしかしないな」
重い溜息を吐く如月への同情が消えない。
哀れなり。
「明日、斉藤くんと三人のシフトだよ」
「マジ? 俺、斉藤くんに避けられるかな」
「写真の言い訳を考えないとね」
「難しすぎる」
元はといえば、波瀬があの写真を撮影し、見せてきたからこんなことになったのだ。
斉藤の心は傷ついたことだろう。
如月の言う通り、波瀬は余計なことしかしない。もう少しおとなしくしてほしいものだ。
「どう言えばいい? あれは相談を受けてたって言えばいい?」
腕組みをしながら言い訳をつくる如月。
しかし、どう言い訳しても斉藤には響かない。そんな未来が見える。
何を言っても「ハハ、そうですか」で終わる気がする。
まともに取り合ってくれるのだろうか。
ネガティブ全開でぶつぶつモードに突入しそうだ。
「相談される程仲が良いと思われそう」
「偶然会った」
「嘘っぽい」
「無理。これ以上何も思いつかない」
如月は項垂れる。
「でもさ、俺が言い訳する必要ないよね? 言い訳なんかしたらさ、斉藤くんって剛馬さんのこと好きだよね、って言ってるようなものじゃない?」
「……それはそうだね」
急に如月が写真の件について話し始めたら、煽っていると受け取られてもおかしくはない。
何も言わないが吉である。
「だから何も言わないでおくことにする。斉藤くんから聞かれたら、偶然会ったことにしよう」
うん、そうしよう。と呟く如月を見ながら、それが賢明だなと千奈津は頷いた。
しかし斉藤のケアはしたい。
剛馬に気持ちが傾いているのなら、余計に、斉藤の傷を修復したい。
「斉藤くんから写真のことを聞かれるなんて、ないだろうけど」
その如月の言葉には千奈津も同意であった。
だから斉藤のケアをしたい。
どうすればいいのか分からないが、とりあえず明日会ってから考えよう。
もしかすると、斉藤が立ち直っている可能性がないこともない。
如月と千奈津は海老原が待つ店内へ続く扉を開けた。




