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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第76話

 剛馬が如月を誘ったのは、当然といえば当然であった。

 斉藤に好意を寄せている剛馬が恋愛相談できる相手は片手で足りる。

 同性に相談するよりも、異性に相談した方が解決できる問題もある。


 剛馬は、その日シフトが被っていた如月に声をかけた。


「明日、空いてますか? 相談したことがあって」


 如月はその相談事にぴんときてすぐに了承した。

 デートという意識はなかった。それは剛馬も同じだと、如月は確信している。


 剛馬と深く話したことはないが、容姿が整っているという共通点から、親近感があった。

 容姿が良いというのは、いいことばかりではない。恐らく今まで互いに似たような悩みがあったことだろうと思っている。


 翌日、二人はカフェにいた。

 テーブルを挟んで向かい合い、剛馬は斉藤との映画デートのことを話した。

 如月はコーヒーを飲みながら聞き、「そのとき俺、後ろにいたな」などと思いながら黙っていた。

 時折、剛馬が言いにくそうに俯いたり、恥ずかしそうに早口になっている様子から、本当に斉藤のことが好きなんだなと、如月はしみじみ思った。


「で、また映画を観に行くことになったんだけど」

「へえ、よかったですね」

「でも、この前の映画はあまり面白くなかったみたいで」

「好みが分かれそうな映画でしたからね」

「だから今回誘ってくれたのかな?」


 もじもじと手を動かす剛馬の言いたいことがなんとなくわかった如月は、なんと言おうか考える。


「正直、そんなに楽しいデートができなかったから、わたしにチャンスをくれたのかなと思うのですが」


 まわりくどいが、つまりは何故デートに誘ってくれたのかを聞きたいのだ。そしてその答えは、剛馬に気があるからだというものを所望している。

 しかし如月は、それを言ってあげることはできない。

 如月から見て、斉藤は剛馬に好意を寄せているように見える。あくまでも如月の見解であり、本人から直接聞いたのではない。

 もしも斉藤が剛馬に惚れていたとしても、如月が伝えるのは野暮である。

 好きだと打ち明けられるのは、本人の口からがいいに決まっている。


「斉藤くんは嫌いな人を誘ったりしたいと思いますよ」

「そ、そうですよね! そ、それで、斉藤くんの好きな服装って何だと思いますか?」

「服装?」

「綺麗系とか、可愛い系とか、モード系とか」

「さぁ、そういう話はしたことがないので分からないです」

「そ、そっか」

「意外ですね、剛馬さんは自分に似合う服を分かってそうですけど」

「それは、そうなんだけど。今まで斉藤くんみたいなタイプは周りにいなかったから……」


 如月はまたしてもぴんときた。

 剛馬は今まで散々異性から言い寄られたことだろうから、嫌でも男性のことを知っているはず。

 自分自身もそうであるため、よく分かる。勝手に統計がとれてしまうのだ。

 こういう男はこういう行動をする、こういう男はこういうものを好む。そんなことが分かってしまうのだろう。

 今まで斉藤のようなタイプが周囲にいなかったというのなら、斉藤タイプの統計はとれていないはず。斉藤がどういうものを好み、どういうことをしたいのか。そういったことの予想ができない。攻略のための式が立てられないのだ。


「千奈津ちゃんに相談しようと思ったんですけど、男性の意見が聞きたかったんです」

「うーん、俺も斉藤くんとプライベートな話はあまりしないから、お役に立てないかもしれません」

「なんでもいいんです。男性の意見が聞きたいんです」


 切羽詰まっている様子から、相当攻略に苦労しているようだ。

 男性の意見が欲しい、と言われても如月が話せることはあまりない。

 斉藤と特段仲が良いわけではないし、踏み込んだ話もしない。

 偏見なら話せるが、それは求められていないだろう。

 如月が斉藤について知っていることと言えば、陽キャが嫌いなことくらいだ。それを素直に伝えたらどうなるだろうか。もしかするとひどく落ち込むかもしれない。

 やはり、言えることは何もない。


「もしかして、もしかしてだよ、もしかして千奈津ちゃんがタイプだったり……」


 美人も卑屈になるらしい。


「斉藤くんと千奈津ちゃん仲が良いし、千奈津ちゃんが気づいていないだけで実は……」


 自分で言っておいて涙目になる剛馬。

 確かにあの二人の仲は良いが、恋愛的な雰囲気になっているところは見たことがない。

 それに、斉藤が千奈津に好意を寄せていたのなら、自分が気付くはずだ。と、如月はそこまで考えて思考を止めた。

 止めなければずるずると、千奈津のことで頭が埋め尽くされそうだった。

 今は剛馬の話である。


 カフェに来て相談を受けているのに、何も言えずに去るのは剛馬に申し訳ない。


「斉藤くんは千奈津ちゃんをそういう目で見てないですよ」

「じゃ、じゃあ波瀬さん……」

「波瀬さんはすべての……」


 すべての男に対して色目を使っているので、と言おうとして止める。

 剛馬は人を貶めるような発言を嫌がりそうだ。


「波瀬さんも違いますよ。波瀬さんの好きな人は別にいますから」

「あ、そっか」


 剛馬はそういえば、と如月を見て安堵した。

 安心したら力が抜け、抑えていた相談事が次々と口から飛び出す。


 斉藤の好きな色は何か。普段何を考えているか。決断する時の基準は何か。大切にしているものは何か。どういった話題なら盛り上がれるか、襟足は切らないのか。

 本人に聞けよ、と思いながらも如月は「分からない」の一点張りだった。

 剛馬も答えが返ってくるとは思っていないので「じゃあこれは? これは?」と期待せず質問のみ繰り返す。

 本人に聞けないけれど聞きたいことを、今ここで吐き出しているのだろうと如月は予想した。


 一通り吐き出すと、剛馬の表情は軽くなった。


「こういうこと千奈津ちゃんには聞けないから、すっきりしました。斉藤くんのことを聞きすぎると、千奈津ちゃんにしつこいと思われそうだったので」

「そんなこと思わないと思いますよ」

「千奈津ちゃんはバイトの中で一番仲が良いから、嫌われたくないんです」


 今日のこと、千奈津ちゃんには内緒にしてくださいね。そう念押しされ、如月は首を縦に振った。


 入店したときとは違い、晴れやかな表情の剛馬と店を出て、二人並んでそれぞれの帰路についた。


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