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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第75話

 翌日、如月が出勤してきた瞬間、千奈津はどすどすと歩み寄った。

 眉間にしわを寄せて近づいてくる千奈津に驚き、如月は後退する。

 千奈津が目の前に立つと、顔と顔が近く、背中を仰け反らせてしまう。


「斉藤くんにばれたよ」

「な、何が?」


 千奈津が詰め寄っている間に海老原が出勤し、二人を見て距離をとった。

 はたからみると、如月が千奈津に怒られているように映っている。

 海老原は間に入ることも考えたが、如月から「こっちに来るな」と顎で命令されたので、二人に関わらずレジに立った。


 出勤早々、千奈津から不穏な空気を感じ、如月は困惑しながら「どうしたの?」と訊ねた。

 先ほど言われた「斉藤くんにばれた」という意味が分からず、説明を求める。


 女性客が一人、会計を済ませて店から去っていくが、去り際に二人にちらっと視線をやる。


 仕事中に私情で喧嘩をするのは如何なものか、と海老原は腕を組んで二人を遠巻きに眺める。

 仕事中ではあるが、実際に仕事はなく、忙しくなれば呼べば済む話である。

 早いところ話を終わらせてもらおう。

 海老原は如月にジェスチャーで「バックヤードに行きますか?」と訊ねた。

 如月は少し考え、頷く。


「場所を変える? ここ、店内だし。バックヤードで話そうか」


 そう言われると千奈津は弱った。

 それだとサボっているようで、体裁がよくない。

 話は退勤してからでもできるので、今でなくてもいい。けれど、抱えているもやもやをすっきりさせたい。


「バックヤード行きます?」


 千奈津が悩んでいると、しびれを切らした海老原がいつの間にか傍に立っていた。


「どうせ今日もそんなに客いないんで」

「で、でも」

「何かあれば呼ぶんで、いいっすよ。話し合いは大事だと思うんで」

「そ、そう?」

「閉店間際には戻ってきてくれるとありがたいっす」

「そんなに時間かからないよ」


 ありがとう、と言って千奈津は如月をバックヤードへ押し込んだ。

 バックヤードに二人きり。

 なんだか告白でもされそうなシチュエーションだ、と思った如月だが千奈津の顔が告白のそれではない。


 あの写真を手に入れていたら話が早いのだが、波瀬が渡してくれるはずはないので、証拠不十分で話を始める。


「凛ちゃんとデートしたみたいじゃん」

「デート?」

「斉藤くん、ショック受けてたよ」


 裏切りだ、と白い目で見られた如月は頭をフル回転させて何のことか思い当たる節を探し出す。

 デートをした記憶はない。

 しかし、二人で出かけた記憶はある。


「違う違う、あれは違う。デートじゃないから」

「じゃあ、何?」

「何って……」


 言ってもいいが、それを言う必要があるのか。

 剛馬と出かけたのは事実だ。

 剛馬が斉藤に想いを寄せていることも、斉藤が剛馬に気があるのも知っている。

 しかしそこに、千奈津は関係ない。


「そりゃあ、いろいろ?」

「いろいろって何?」


 深堀をする千奈津に言葉を選びながら、のらりくらりと避けるが逃がしてくれない。

 言ってもいいが、言わなくてもいいことで、言う必要のないことだ。


「うーん、千奈津ちゃんには関係ないから言えない」


 この一言に尽きる。

 口に出したあとに、もう少し柔らかい言い方をしたらよかったかなと後悔した。

 千奈津が何も言わないので顔を見ると、傷ついたような、何かを言いたいけど言えないような、そんな表情をしていた。


「まあ、確かに、そうだよね」


 剛馬と如月がデートをしていたからといって千奈津には関係ない。

 剛馬が好きなのは斉藤であり、斉藤もまた剛馬を意識していて、そこへ如月が割って入っているだけである。千奈津には関係ない。

 剛馬とは仲が良く、斉藤は可愛い後輩なのでどうしても二人が気になってしまう。

 気になるだけで、直接関係があるわけではない。


 しかし、こうもはっきりと言われると、三人に線を引かれたような気になってしまい、疎外感を持つ。


「あ、いや、今のは」


 しゅん、と肩を落とす千奈津に慌ててフォローしようとするが、すぐに言葉が出てこない。


「ごめん、聞きすぎた」

「実は剛馬さんからデートの相談をされてさ」


 謝罪をされ、如月の胸にちくりと針が刺さると、言わないつもりの事実が口から飛び出ていた。


 つい数秒前までは「関係ない」と言い放っていたのに、急に話し始めた如月を怪訝な目で見つめる。

 千奈津の顔を見ることができない如月は首をひねり、目を閉じる。

 数秒前の発言を撤回すべく白状した如月に、千奈津は意地の悪さを感じた。


「如月くんって、そういうところあるよね」


 ため息交じりに呟くと、その言葉の矢が如月に傷を負わせる。

 刺さった矢を抜くことができないまま、如月は話し始めた。


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