第74話
斉藤の頭の中では笑みを浮かべる剛馬がぐるぐるまわる。
如月と仲良さそうに写っていた写真。
最初は波瀬の嫌がらせの類かと思った。どうせ合成だろう、そんな気持ちも抱いたが一瞬で消え去った。
二人が並んで楽しそうにしている姿は、自分が剛馬の隣に立つよりもしっくりきていた。
あ、そういう関係なんだ。
そう思うと、胃がきりきりと痛み始めた。
目尻から出るものを拭い、心配そうにしている千奈津の顔が視界の端に映っているため、平静を装う。
しかし、目元を拭う仕草で千奈津は一層心配そうに眉を下げた。
最悪。こんな姿を見られるなんて。写真を見ただけで泣くなんて。
自己嫌悪に陥るが、千奈津は斉藤の背中を優しく叩く。その慰めに斉藤は縋りたくなり、つい本音を語ってしまう。
「……僕、剛馬さんとデートしたんですよ」
「うん」
千奈津は、知ってるよ、とは言わずに続きを聞く。
「なんか、いい感じかもとか思ったりしてたんですよ。次のデートも約束したんで、これってもしかして、そういうことかなと。ありえないですけど、本当にありえないですけど、剛馬さんって僕のこと意識してるのかな、とかそういうことを思ったりしたんですよ。キモいんですけど、本当にキモいですけど」
ぽたぽたと涙が床に落ちる。
波瀬はバックヤードへ行ってしまい、店内には二人だけ。
「でも僕の勘違いかな、とも思って検索したんですよ。あんな美人が僕のこと好きになるわけないし、遊びかな、何か理由があるのかな、なんて思って、ネットで調べました」
友達がいない恋愛初心者の斉藤は頼る相手がおらず、ネットで答えを探した。
千奈津や如月はバイト仲間であって、友達ではない。恋愛初心者を全面に出した相談は恥ずかしくてできなかった。
「そうしたら、僕が勘違いしてたっていう結論に至ったんです。陰キャは陽キャに話しかけられると自分に好意があるのだと勘違いする生き物なんです。だって、仕方ないじゃないですか。今までそういう経験ないんですよ。女の人に優しくされたことなんてないし、デートなんて当然ないですよ。あんな美人に誘われたら、淡い期待を持ってしまうじゃないですか」
幼い少年の如く涙を流すので、千奈津は母性本能で頭を撫でそうになる。
そんなことをすればセクハラだ。
手のひらを握り、後ろへ隠す。
「もう本当嫌だ。もう僕に近寄らないでほしい、勘違いしてしまいそうです。そりゃあ、誰だって如月さんみたいな人がいいですよね。僕にだってそれくらい分かりますよ。如月さんと僕は比較にもならないし、如月さんが顔だけ良い人だなんて思ってませんし、僕なんて最初から……」
落ち込む斉藤に「そんなことないよ」と否定したいが、何を言っても聞く耳を持たないだろうと判断し、黙って聞く。
「もう本当最悪、無理。ああぁぁああああぁぁ」
両手で顔を覆い、その場にうずくまるので千奈津も同じ目線になるように膝を折る。
精神的ダメージが大きいようで、めそめそと泣く斉藤を慰めながら、如月を蹴り飛ばしたい衝動に駆られる。
最低な輩だ。
全部知っているくせに。
自分さえよければそれでいいのか。
ばれなきゃいいと思っているのか。思っていそうだ。
次に会った時は問い詰めてやる。
千奈津はポケットからスマホを取り出してシフト表を確認する。
明日の血祭が決定し、千奈津は泣き止ませるべく、斉藤を慰め続けた。




