第70話
剛馬の選んだカフェは写真通り、とても洒落ていて、千奈津は剛馬のセンスを褒め倒したかった。
温かみのある店内は、女性客かカップルしかいない。
席の数は少なく、空間を上手く利用した落ち着きのある雰囲気だった。
千奈津たちが案内された席から顔を出すと、剛馬と斉藤が見える。
想像していたよりも斉藤は落ち着いていて、緊張している様子はない。
「千奈津ちゃん、何食べる?」
如月にメニュー表を渡されたので、一緒にのぞき込む。
メニューは多くなく、ランチは三種類のパスタから選ぶようになっている。
千奈津はその中から一択をすぐに消した。ペペロンチーノを控えたいのは、デート中の乙女なら誰もが思うことだろう。
「じゃあ、この和風キノコパスタ」
「俺も。パンとサラダはどうする? ドリンクもあるけど」
ランチセットならパンとサラダがついてくるようだが、パンは避けたい。
なぜなら、ガーリックパンだからである。
「単品にする。ドリンクはアイスティで」
「じゃあ俺もそうしよ」
メニューが決まると如月が店員を呼び、注文をした。
「如月くん、メニュー私と一緒でよかったの?」
「え、まさか真似したと思われてる?」
「違うの?」
「あー、ドリンクは真似したかも。選ぶの面倒だったから」
「飲みたいものなかった?」
「飲むものは何でもいいんだよね。選びたいとか、これがいいとか、そういうのあんまりない」
「ふうん、変わってるね」
そんな話をしていると、斉藤の前にパスタが置かれた。
千奈津は斉藤が何を注文したのか気になって、目を細めてパスタを見ると、ペペロンチーノだった。
まさかのペペロンチーノである。千奈津が避けたペペロンチーノである。
デートでペペロンチーノを食べるな。
そう叱咤したくなる。
「千奈津ちゃん?」
「さ、斉藤くんがペペロンチーノを頼んでる」
言いたいことを察した如月は笑った。
「いいじゃん、ペペロンチーノくらい」
「いやでも、デートでペペロンチーノはちょっと。この後も一緒にいるなら考えないと」
「タブレット持ってるのかもよ」
「そ、それはそれで嫌だ」
ペペロンチーノでにんにく臭をさせた後、タブレットを噛んで爽やかな口臭にする。
だったら最初から食べるな。違うものを注文しろ。萎える。
「もしかして、それで千奈津ちゃんもペペロンチーノを避けたの?」
不意打ちだった。
千奈津はすぐに返事ができず、斉藤の方を見たまま「そういうわけじゃないけど」と言うのが精一杯だった。
にんにく、気にしたんだ。
如月はまた笑い始めた。
「何笑ってんの」
「別に。ふっ」
笑われている。
きっとにんにくのことで。
なんか恥ずかしい。
これをデートだと思って、にんにく料理を食べないようにした女。
そう思われているのだろう。
別に、デートだと思っていたわけじゃないし。
顔の良い男が目の前にいて、一緒に食事をするのに、にんにく臭をさせるのはどうかと思っただけで、ただそれだけだし。
未だに「ふっ、くっ」と、声を堪えて笑う如月にイラつく。
そんなに笑わなくてもいいだろうに。
「ごめんごめん。可愛いこと考えてるなと思って」
「うるさい」
可愛いこと、と言ったが本当に可愛いと思っているわけではないだろう。
馬鹿にされているのだ。
むかつく。
千奈津の顔が一層歪むが、如月は気づかず笑いは止まらない。
その笑いを中断させるかのように、店員が二人の前にパスタを運んできた。
如月は「はー、笑った」と言いながらフォークを千奈津に渡す。
笑う如月に苛立ちを覚えたが、それよりも恋愛経験値の高さにぐうの音も出ない。
ここまでで既にいくつも経験値の高さを見せつけられた。
今もそうだ。
フォークを渡してくれたり、さりげなく上座に座らせたり、店員を呼んでくれたり。
誰にでもできることで、実際にこれをする男は多いのだろうが、すべてさりげなくやってのけ、それに何より顔面の良さがプラスされる。
必ず目を見て話すし、一緒にいる間スマホは一度も出していない。
彼女にはこれ以上のことをするのだろう。
その彼女がほんの少しだけ羨ましい。
如月に惚れる女の気持ちが理解できる。
これは堕ちてしまう。
その辺の男が同じことをしていたとしても、何も思わないが、如月がすると心臓に悪い。
これが顔面の格差か。
目の前で上品にパスタを食べる如月を見て、千奈津も食べ始めた。
すすって食べたくないので、くるくるくるくる何度もフォークに巻き付けて口に入れた。




