第66話
「っていうことがあったんですよ」
千奈津は、波瀬から剛馬を守ったかと斉藤に聞いたつもりだったが、話は予想外の方向へ進み、何故か斉藤と剛馬が二人で映画を見に行く話となっていた。
剛馬のアプローチに拍手を送りたい千奈津だった。
「へえ、剛馬さんと行くの? いいじゃん」
如月は斉藤の話を聞いて楽しそうに笑う。
「いや、なんか、よく考えたら、これってあれですよね」
斉藤はもごもごと言いにくそうに、「あれで、その、あれですか」と視線を泳がせる。
如月は笑顔で頷き「デートだね」と断言した。
「デート、デートですか。マジですか」
青ざめる斉藤に、二人は首を傾げる。
美人とデートできるのは、大変名誉なことであり、泣いて喜ぶものだ。
斉藤の反応からして、もしや行きたくないのか、と如月と千奈津は顔を見合わせる。
「剛馬さんと出かけるの、嫌?」
不思議に思った如月が問うと、斉藤は悩んだ後、「嫌ではないです」と答えた。その一言で千奈津は一旦安堵する。
「嫌ではないですけど、気まずいです」
「気まずい?」
「剛馬さんと僕、いろんな面で合いそうにないので、一緒にいて耐えられるかどうか」
斉藤の言いたいことが何となくわかった千奈津も、「うーん」と悩む。
剛馬は明るく、モデルをやっていたことからわかるように美人である。斉藤はどちらかというと暗く、如月のように目立つイケメンではない。
二人が仲良く一緒にいる未来を想像するのは、千奈津にとって難しかった。
「なんで僕、誘われたんですかね。一緒に映画を見る人がいなかったからですか? でも友達が多いなら、誘えば誰かしらついてきてくれますよね? で、デー......ってことは僕が奢らないといけないってことですかね、いやでも僕、そんなにお金ないし。それに、二人で歩いてるところに、剛馬さんの知り合いと遭遇したら僕が彼氏だと思われちゃうじゃないですか、それは剛馬さんに申し訳ないし、それに、こんな格好で剛馬さんの隣を歩いても大丈夫なんですかね。正直、如月さんや海老原が着てるような服、持ってないんですよ。あと映画の席をとっておくって言われたんですけど、これってもしかして僕がやった方がよかったやつですよね。映画も昼食も剛馬さん任せにしてしまいました。昼食を食べるとき、店に入るのって僕が先に入るんでしたっけ、先に扉を開けるのが男の役目なんですよね? はぁ、どうしよう、深く考えずに行くって言ってしまいましたけど、今になって事の重大さに気づきました」
吐きそうになっている斉藤を、二人は遠い目で見守っていた。
「俺、たまに思ってたけど、斉藤くんって結構デリケートだよね」
「これをデリケートって言うの? こじらせてるだけじゃん」
「うーん、直球」
「女友達がいない男って、皆こうなの?」
「これは極端な例だなー」
土曜日のことについて、青い顔でぶつぶつ呟いている斉藤の肩に手を置き、如月は変わらぬ笑顔で言った。
「人を誘うのに深い意味なんてないよ」
陽キャ代表にそう言われ、斉藤の口はぴたりと止まる。
「映画に行きたいなー、一人で行くよりも誰かと一緒がいいなー、今目の前に斉藤くんがいるなー、誘ってみるか。多分こんな感じじゃない?」
如月にそう言われると、そんな気がしてきた。
深く考えすぎていた斉藤は脳内をクリアにし、「特に意味はない」と結論付けた。
冷静になった斉藤は思った。
そもそも、陽キャは何も考えていないのだと。
陽キャの言動を考えても無駄なのだ。
何故そんなわかりきったことにすぐ気づけなかったのか。
認めたくはないが、容姿が整っている剛馬に誘われて舞い上がった。
だからあれこれと考えてしまったのだ。
恥である。
美人な陽キャに誘われ、喜んだのだ。
どうして自分なんかを誘ったのか。その答えが「好意を抱いているから」だといいと、心のどこかで思っていたのだ。
そしてそれを、第三者に言ってほしかったのだ。
「剛馬さんが斉藤くんを誘ったのは、斉藤くんのことが好きだからじゃない?」という答えを待っていたのだ。
それを見透かしたかのように、如月はその希望を打ち砕いた。
まともに陽キャの相手をすると怪我を負う。そんなことは今までの経験上知っていたのに、まともに考えてしまった。
これだから陽キャは嫌いだ。
剛馬の隣を歩くなら服装を変えた方がいいかもしれない、と考えていた自分を蹴り飛ばしたい。
隣に立っている如月を見ると「ん?」と笑顔を向けている。
自分もこんな顔だったら、みっともない考え事をしなくて済んだのだろうな。
こんな顔だったら、剛馬と並んでも見劣りしない。
生まれ変わったら如月になりたい。
幾度となく思ったことだが、今日はより強くそう思った。




