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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第51話

 とある日。

 千奈津が井上と交代し、昼からシフトに入っていると気づけば夕方になり、剛馬が出勤した。続いて斉藤が出勤した。

 斉藤と剛馬は初対面であるため、千奈津は一人ずつ紹介した。


「よろしくお願いします」


 斉藤は軽く頭を下げると、剛馬も慌てて挨拶をした。


 今日の剛馬は髪をおろしており、ぷらぷらとチューリップの形をしたピアスが揺れている。

 薄く、けれど綺麗に化粧が施された剛馬の顔は、同姓の千奈津ですら見惚れてしまうというのに、斉藤は微塵の興味も示さず、カウンターに置かれている連絡ノートを広げた。暇すぎてすることがないので、何日も前のページを開いている。


「千奈津ちゃん、ちょっと」


 剛馬に呼ばれ、千奈津は店の端に寄る。

 興奮した様子の剛馬に疑問を抱くも、すぐにその疑問は解消される。


「あの、あの、あの人、斉藤くんっていうの?」


 興奮してぱしぱしと千奈津の肩を叩く剛馬の反応に、千奈津は驚愕した。

 まさか。


「どうしよう、好きかもしれないっ」


 まさかである。

 千奈津は素早く首を動かし、斉藤を眺める。

 普段と変わった点はなく、いつもの斉藤だ。

 前髪で目は隠れ、黒い服装によって体は覆われている。その服はスカートなのか、それともズボンを履いているのか、千奈津には判別がつかない。

 いつも通りだ。


「さ、斉藤くんがタイプなの?」


 なんで?

 千奈津の頭は疑問符で埋め尽くされた。今年一番理解できない事柄だ。


 剛馬はモデルをするほどの美人で、どの角度から見ても画になる。

 学生時代はさぞかし言い寄られたことだろう。

 それに対して斉藤は、陰のオーラを纏っている。目立たない、目立ちたくない、話しかけてほしくない。そんな雰囲気を持っている。剛馬は斉藤よりも如月と並んだ方がお似合いだろう。


 斉藤の前髪は初めて会ったこ頃からずっと同じで、両目がはっきりと晒されたことはない。

 しかし、恐らく美形の類に入るのではないかという予想はしている。

 如月の容姿が目立つため、斉藤に光が当たることはないが、来店する女子中高生の中で斉藤にちらちら視線を送っている子は幾人かいた。

 接客中も笑うことがないので暗いイメージがあり、話しかけにくいと思われがちなため、進んで斉藤に話しかける客はいない。


 そして性格は如月に次いで悪い。

 笑顔は見せないが、あくどい笑みなら浮かべる。嘲笑や失笑もする。


 そんな斉藤に、剛馬が好意を寄せている。

 なんで?

 そう思ってしまうのも当然だ。


「なんか、可愛い」

「そ、そうかな?」


 可愛い、のか。

 斉藤は千奈津の一つ下で、剛馬は千奈津の五つ上だ。つまり二人には六歳も差がある。

 年下に対して可愛いという感情を抱かないわけではないが、恋愛対象にならない。六歳も下なんて子供だろう。


「凛ちゃんのその可愛いは、年下として? 弟みたいな? そういう可愛い? タイプっていうのも、愛でる対象としてのタイプってこと? つまり推しみたいなこと?」


 最近は推し活というものがある。推しがいるだけで日々の生活が楽しくなるのだとか。アイドルのファンや、アニメ好きのオタクがよく「わたしの推しはね」という感じで使っているのを見聞きしたことがある。


「推し...…? えぇー、そう言われたらそんな気もするし……でもドキドキしたし……」

「ど、ドキドキしたの?」

「やだ、なんか恥ずかしい」


 きゃっ、と両手を頬に当てて照れる剛馬に千奈津は「こりゃ恋だな」と確信した。


「ちなみに、斉藤くんのどこにドキドキしたの?」


 好奇心満々で訊ねた。

 如月を好きと言われたら「あ、そうなんだ」とすぐに納得できるが斉藤だとそうはいかない。

 この剛馬が、あの斉藤に好意を抱いた。

 それだけでビッグニュースである。

 どうして好きなのか、どこを好きなのか、一目惚れなのか。


「どこ、っていうか、一目惚れ」

「一目惚れ!」

「しっ、静かに!」

「あの斉藤くんに一目惚れかぁ、凛ちゃんが、そうかぁ」

「そんなしみじみ言わなくてもいいのに。おかしいかな?」

「おかしいっていうか、モデルまでやってた美人が斉藤くんを好きになるっていうのがちょっと不思議で」

「千奈津ちゃんから見て斉藤くんは、そんなに良くないってこと?」

「恋愛対象ではないかな。ドキドキしたことないし。どちらかというと、如月くんの方がいいかも」

「じゃあ斉藤くんを恰好いいとは思わない?」

「思わない」


 良かった、とにこにこ嬉しそうな剛馬に千奈津はまたもや衝撃を受けた。

 本当に斉藤に惚れたようだ。

 その「良かった」には「千奈津ちゃんがライバルじゃなくて良かった」の良かったである。

 紛いもない好意である。


 千奈津は興奮し、剛馬ににじり寄る。



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