第48話
閉店作業は、閉店になってからでないとできない。
閉店するまでは相変わらず暇な時間を過ごす。
三人ですら暇なのに、四人となるともっとすることがない。
「如月くん、すごく綺麗な顔立ちをしていますよね。モデルか何かされていたんですか?」
「あ、タメでいいですよ。俺より年上ですよね?」
「うん。わたしにもタメでいいよ。千奈津ちゃんとはタメで話しているから」
「分かった。さっきの話だけど、何もしてないよ」
「本当に? こんなイケメンが歩いていたら、スカウトしちゃいそうだけど」
「あぁ、スカウトなら何回かされたなぁ。でも、そういうのに興味はないんだよな」
剛馬と如月が話し始めると、如月の隣に立っている波瀬は如月と腕が当たる距離まで近寄る。
如月の意識が剛馬にあるため、せめて物理的な距離で近づこうとしたのだ。
波瀬と腕が触れ合っていることに気付いている如月だが、波瀬の方を見ようともしない。
「わたしが所属していた事務所で、如月くんより恰好いい人いなかったよ。勿体ない気がするなぁ」
「はは、そこまで褒められたのは初めてかも」
波瀬と話す時よりも楽しそうで、千奈津と話す時よりも穏やか。
二人からふわふわとした何かが放たれているようで、千奈津はほわわんと不思議な気分になりながら眺めていた。
付き合ってもいない、今日が初対面の二人に対してこれがお似合いカップルか、とさえ思う。
そう思っているのは千奈津だけで、波瀬は二人の間に割り込み、剛馬を押しのける。
「如月先輩はうちのインツタでも大人気なんですよ。先輩目当てのお客さんが来るくらいで、それはもうアイドル並みの人気です」
「インツタ? そういえば、うちのインツタがあるんだっけ?」
「先輩の写真を投稿すれば、いいねやコメントの嵐なんです。実際に、先輩目当てで来る中高生は星の数程います」
そんなにいねえよ。
千奈津はそんな如月の心の声が聞こえた気がした。
「へぇ、やっぱり凄いんだね」
「先輩が出勤した日はいつもより売り上げが多いんです。集客力があって、売り上げにも貢献している先輩には尊敬しかありません」
下心しかありません、の間違いだろ。
千奈津と如月の心中は同じだった。
如月がいかに凄いかを自分のことのように自慢し、剛馬は微笑みながら頷いていた。
波瀬が一通り話終えると、如月は「そうだ」と声を上げた。
「剛馬さん、インツタ用の写真撮っていい?」
「えっ、わたし?」
「駄目?」
「いや、大丈夫だよ」
「じゃあ載せよう」
如月は携帯を取り出し、近くにあったヘアアイロンを手渡す。
いきなりの展開で剛馬は戸惑ったものの、如月の「撮るよー」の一言でモデルスイッチが入り、ポーズをとる。
パシャ、と音がすると今度は違うポーズをとる。
それを数回繰り返し、如月が撮った写真を見返すと「おぉ」と感嘆した。
「被写体がいいからかな、凄く綺麗に撮れてる。どの角度でも美人」
「いやいや、これはちょっとないかなぁ……あ、こっちならいいよ」
「全部いいと思うんだけど、違うの?」
「違うよ。これは顔に影が入ってるから駄目」
至近距離で一つの画面をのぞき込む。
どの写真がいいか悩んでいる二人を、千奈津と波瀬が眺める。
「ガチすぎじゃないですか? たかがインツタですよ。顔に影が入ってても、主役は商品なんだから別によくないですか?」
千奈津に同意を求める。
しかし、インツタに一番力を入れているのは波瀬であるため、同意できない。
自分の写真をカウンターに置いているくせに、何を言っているんだ。と鼻で笑いたくなる。
いつだったか、「店員のブロマイドを作れば売り上げに貢献できると思うんです」と力説していた。「試しにあたしで作ってみたんです」と、波瀬のブロマイドを出してきたときは凍り付いてしまった。まるでアイドルのようなポーズで、本気度が見え、千奈津はオブラートに包みながら全力で拒否した。千奈津以外のバイトにも同じことを言ったようで、如月と斉藤が腹を押さえながら笑っていたのは記憶に新しい。
いい案だと同調したのは海老原のみで、ブロマイドの話は没となった。
「あの人、バイトクラッシャーになるかもしれないので、注意してください」
「バイトクラッシャー?」
「重森さんは知らないと思いますけど、大学にはサークルっていう部活みたいなのがあって、そのサークルを人間関係で壊す人のことをサークルクラッシャーっていうんです」
「それが凛ちゃんなの?」
「だってそうじゃないですか。如月先輩に言い寄ってるし、絶対に斉藤くんや海老原くんにもあの距離感で話しますよ。斉藤くんなんて女性に免疫なさそうだから、すぐに弄ばれます」
「そ、そう?」
斉藤は千奈津と普通に話している。波瀬と話している時の斉藤は千奈津と話す時よりもテンションが低い。
女に免疫がないというよりは、カースト上位にいる人間が苦手なのだろう、と千奈津は推測している。如月とはバイトで話すうちに苦手対象から除いたようだが、剛馬に対してはどうだろうか。
嫌味を感じない、穏やかな美人である。
もしも苦手意識を持っていたとしても、如月と同様に、働いているうちに苦手ではなくなりそうだ。
剛馬が斉藤を弄ぶこともない。
千奈津の偏見では、飛び抜けた美人は優しい。
可愛いね可愛いねと褒められて育つと、自己肯定感は高く、心は満たされた状態になる。さもしい人間に育つはずがない。




