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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: える


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39/95

第39話

 以前、如月の写真をインツタに投稿したところ、女子中高生が殺到して暫くの間は毎日のように女子中高生の群れができた。

 これは波瀬にとって好ましい状態ではない。大好きな如月が中高生客にとられ、きゃっきゃと愉快そうな声が嫌でも耳に入ってくる。

 波瀬は女子中高生に対する感情が態度に出てしまい、素っ気ない接客をしていた。

 しかし、中高生の波が引き、群れのピークが過ぎると波瀬は普段通りの接客ができるようになった。

 千奈津はそんな波瀬を呆れながらもその態度を改めるように言わなかった。そんなことをすれば、波瀬は一層不機嫌になり、千奈津は八つ当たりされると確信していた。

 機嫌が悪い波瀬を腫物のように行動していたので、よく覚えている。


『だからね、そっちの店員が娘に対して横柄な態度で接客したのよ! お陰で娘は泣いて帰ってきたわ! 波瀬って名札をつけてたって本人が言ってたの! 波瀬よ、波瀬! いるでしょ!?』


 そんな少し前のことを思い出させる電話がかかり、千奈津は意識を電話の相手に戻す。


 波瀬のその素っ気ない接客を行っていた時のことで、苦情が入ったのだ。

 苦情の電話は滅多にない。こんなにも声を張り上げて、怒り狂っている苦情を引き当てるとは運がない。


『だから波瀬は謝罪に来なさい! 絶対よ! 絶対!』


 謝罪! と叫ぶ女性の話を要約するとこうだ。


 ある日、泣きながら娘が帰ってきた。母親が理由を訊ねると、店員に感じの悪い態度で接客されたという。娘から詳しく話を聞くと、三日前に発売されているはずの商品が店になく、どうして売っていないのかを「波瀬」と書いてある名札の店員に話しかけると、「知りません」と返ってきた。娘は狼狽えたが、どうしても欲しかったので更に訊ねたのだが「はぁ、本部に聞いてください」と娘と一度も目を合わせることなく、冷たく言い放った。

 どうすればいいか分からない娘を放置し、波瀬は大きなため息を残して娘の元から離れた。

 頭にきた母親はその時に苦情を入れようと思ったが、娘はそんなことをしなくていいと泣きながら訴えるので渋々苦情を入れることはしなかった。しかし、やはりどうにも納得がいかない。可愛い娘が店員に冷たくされ、泣きながら帰宅したのだ。親としては店員に対する怒りが鎮まらない。何日経ってもそのことが頭から離れず、耐えきれなくなり電話を入れた。


 千奈津はその商品に心当たりがあった。

 届くはずの商品が前日になっても届かず、マネージャーに電話をかけても一向に出ないため直接本部に催促をした。

 結局、配達の日付を誤っていたようで、商品が届いたのは発売日から五日経過してからだった。

 よくあることではないが、たまにこういうことがあるので、今回もホームページに発売日が遅れる旨を記載していたのだが、その子は知らなかったようだ。

 発売日に発売されると思うのが当然なので、その子は間違っていない。売っているはずのものがなかったら、店員に確認するだろう。

 その子には何の非もない。

 今回は波瀬の対応が悪かった。


 普段はそんな接客をしないのだが、如月のことで頭がいっぱいだった時である。

 八つ当たりをしてしまったのだろう。

 二人の仲を引き裂くべく、如月を取り囲む制服姿の子から話しかけられ、つい冷たくあしらった。


 しかしその波瀬の行動で、千奈津は電話越しに怒鳴られている。

 波瀬は如月と楽しそうに話しており、理不尽なことこの上ない。


『ちょっと、聞いてるの? 今そこに波瀬って人はいる? どうなの?』


 こういう場合、どうしたらいいのだろう。

 波瀬を電話に出させていいものだろうか。

 苦情があったことをマネージャーに報告し、指示を仰ぐのだろうか。

 判断できない千奈津は、二人に助けを求めるべく、巻き込むべく、「波瀬ですか!?」と二人に届く声を出した。


『そうよ、波瀬よ。どうなの? そこにいるの?』

「波瀬ですか、波瀬は……」


 波瀬を連呼していると、名前を呼ばれた波瀬は千奈津を凝視する。

 話の内容が自分だと察すると、如月を連れて千奈津の傍にやってきた。

 どうしよう。

 初めてのことなのでおろおろしていると、良くない電話だと察した如月が千奈津の手を取った。


「波瀬さん、店お願い」

「は、はい」


 素直に頷くと、如月は千奈津とバックヤードへ繋がる扉を開けた。

 椅子に座って電話を置き、スピーカーにする。


『早く波瀬を出しなさい! 謝罪をさせなさい!』


 どうしよう、と千奈津は如月の顔を窺うと、如月は首を横に振った。

 メモ帳に書き込み、千奈津に見せる。


「申し訳ございません、波瀬は本日おりません」

『じゃあ謝罪に来させなさい!』

「はぁ、あの、お名前とお電話番号を伺ってもよろしいですか? 本日は責任者もおりませんので、また折り返させていただきたいのですが」

『はぁ!? 今日よ今日! 今日誤りに来なさい!』

「そう言われましても、責任者も波瀬もおりませんので……。明日、必ずお電話します」

『なんで今日じゃないの!? こっちは随分泣かされてんのよ!』

「あの、この度のお電話があったことを本日伝えまして、明日改めてご連絡します」


 今日でないと駄目だ。

 明日連絡する。

 その言い合いを三十分程続けると、夕飯の支度があるからと一方的に電話を切られた。


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