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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第37話

 斉藤の態度に腹を立てた井上は、斉藤と視線が絡む度、露骨に顔を逸らして無視を決め込んだ。

 井上に用がない斉藤は、話しかけることもないので負うダメージはない。斉藤の飄々とした姿がまた井上に火をつけ、「あの人は失礼極まりないです。礼儀をもっと叩き込むべきです」と、如月と千奈津に向けて吐き出す。

 千奈津と言い合っていたことなど忘れ、今度は斉藤へ敵意をむき出していた。斉藤には申し訳ないが千奈津としては好都合であり、再び井上に業務説明を行う。


 大体の流れを説明し終えると、井上に会計させるためレジ係を担当させた。

 客はちらほらやって来るので、慣れない手つきで商品を触り、袋に入れ、金銭のやり取りをする。

 井上が今までどこで働いていたのか聞くことはできなかったが、接客は初めてなのだろうということは見当がつく。

 自信なさげな喋り方や、客の目を見ないところから、客と接したことがなさそうだと判断できる。

 金銭のやり取りであるならば、もたもたしながらもできるのだが、それ以外の決済方法だと途端に手が止まる。

 そして教えを乞うような視線を千奈津にちらちらと寄越す。

 決して「教えてください」とは言わないので、千奈津は呆れながら「ここを押して……」と指示するのだが、素直に礼を述べることができず「あ、そうでしたそうでした」と分かっている風を装うのだ。


 二人が喧嘩モードから抜け出したのはいいものの、如月と斉藤は何とも言えない表情で見守っていた。


 客足が途絶えると暇になり、井上は千奈津が言っていた「この店は忙しくありません」を理解した。客はぽつりぽつりとしか訪れない。会計に列ができない。

 通常は混み具合に時間帯や曜日が関係してくるのだろうが、千奈津の台詞から、この店は時間や曜日にかかわらず忙しくないのだと予想できる。


 千奈津と二人並んでいるが、会話があるわけでもないので気まずい。


 千奈津は井上に雑談を持ち掛けようとするが、普通に雑談ができるとは思えない。「何歳ですか?」「どうしてここで働こうと思ったんですか?」「休日は何をしているんですか?」初対面の人間とよく話す内容であるが、井上はきっと「貴女は面接官ですか?」「プライベートな質問はお答えできません」のように、斜め上の回答を用意しているはずだ。

 また喧嘩になってしまいそうなので、千奈津は雑談をすることなく静かに立っていた。


「……そういえば、朝のバイトは誰か辞めたのですか?」


 まさか井上から話題を振ってくるとは思わず、千奈津は「へっ?」と素っ頓狂な声を上げた。


「あ、え、朝のバイト? いや、辞めてないと思いますけど」

「そうですか。わたくしが面接をした際に、今いる朝のバイトの方が出られなくなるから、と言われました」

「そうなんですか? 朝は剛馬さんっていう女性がほとんど一人でやってますけど、辞めるのかな」


 剛馬とは毎週会っているが、そんな話をしたことはない。


「わたくしは朝も夕方も入る予定と言われましたが、恐らく朝がメインだと思います」

「あ、そうなんですね」


 井上とうまくやっていく自信がなかったので少し安心した。

 しかし、朝から働く井上を想像して気づいた。


 朝は一人体制である。


 こんな変人を一人、店内に置いて大丈夫なのか。

 最初は剛馬か誰かと一緒に仕事をするのだろうが、独り立ちしたときにはどんなことが起こるのか。

 想像すらできない。

 井上が出勤して何かをやらかし、その尻ぬぐいを昼や夕方のバイトが行う。

 それは勘弁したい。


 一人なばら「よし、本部にメールを送ろう!」と井上が意気込んでも止める人がいない。やりたい放題である。


「今日は重森さんにお世話になりましたが、明日以降は別の方の世話になるでしょう。わたくしは基本的に朝の業務と伺っておりますので、重森さんと会う回数は少ないかと思いますが、これからもよろしくお願いいたします」


 丁寧に頭を下げるので、千奈津は複雑な気持ちだった。

 悪い人ではない。

 ただ変な人なだけだ。「やばい奴」と早々にレッテルを貼られる人なだけだ。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 複雑な心中のまま、千奈津も井上同様に頭を下げた。


 その光景を店の端で見ていた斉藤と如月も複雑な心中だった。

 やばい奴だが悪い奴ではない。

 しかし、関わりたくないのも本音だ。


「重森さん、妹に玩具を譲ったはいいけど自分も遊びたくなって我慢する長女の顔をしてますね」

「何その表現」


 うんうんと、問題解決したかのようにすっきりした斉藤に対し、この男も変わってるよな、と如月は心の中で呟いた。


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