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ニコニコショップのアルバイトたち  作者: 円寺える


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第35話

 千奈津は井上に教え始め、また呆気にとられた。

 我慢できずに色々と指摘してしまう。


「井上さん、メモは取らないんですか?」

「メモ? 覚えられるので不要です」

「でも、ど忘れしちゃうことありませんか?」

「そうなったらまた聞くので大丈夫です」


 そうならないようにメモを取るのだ。

 井上はメモを取ることなく千奈津の話を聞き、ふんふんと理解しているように頷く。


「袋は三種類あるので、お客様の購入品に見合った袋をここから取り出します」

「それは効率が悪いです」

「はい?」

「すべて同じサイズで統一すれば、選ぶ手間もなくスムーズになりますよ。ワンサイズに統一したらよろしいかと思います」

「いえ、サイズによって袋の代金も違うので、統一にはできないんです」

「何故ですか?」

「な、何故…...?」

「わたくしたちが袋を選んでいる時間があれば、他のお客様の接客ができるのですよ。無駄な時間はなくすべきです」


 眼鏡を持ち上げて千奈津に言い返す。

 その表情は勝利に満ち溢れていて、千奈津は青筋を立てるが、心を落ち着かせる。


「小の袋は三円、中の袋は五円、大の袋は十円です。小の袋で済むお客様に、大の袋を渡すとお客様が損をします」

「しかし、会社からすると良いことではありませんか。七円分の儲けになります。そしてサイズを統一することで店員の無駄な時間の削減にもなります」

「井上さん、その時間を削るほどこの店は忙しくありません」

「なんと。暇な店舗にこれだけの人数を揃えているのですか。非効率ですね。人件費をもっと削ることができます」


 あぁ、鬱陶しい。

 どうでもいいことに突っかかるので、話が先に進まない。

 如月と斉藤を見ると、目を逸らされた。

 関わりたくないのだろう。その気持ちは千奈津も分かる。もしも教育係が千奈津ではなく如月か斉藤であったなら、千奈津も遠巻きに眺めるだけだっただろう。


 どうしてこんな癖の強い人間を引き入れたのか。

 あのマネージャーは見る目がないのか。あぁ、ないのだった。マネージャーはアルバイトの中で波瀬と一番仲が良い。波瀬を「一番仕事ができるアルバイト」と認識しているのだ。

 一番面倒事を起こすアルバイトなのだが、店舗にいないマネージャーには分からない。


「井上さん、人件費だとか効率だとか、そういった話はここでしても無意味ですよ。そういうのは本部の社員たちが行いますので」

「ふうむ、本部がやるからといって自分の頭で考えることなく指示に従ってばかりいるのは、良いことだとは思えません。こちらからも本部に提案をすべきでしょう」


 先程働き始めた人間が何を言っているのだ。

 千奈津は頭を抱えたくなる。

 井上は早速、先程千奈津が教えたパソコンを立ち上げて本部へメールを送信しようとする。

 急いで腕を引き、パソコンの前から移動させる。


「重森さん、自分をフリーターだからと諦めてはいけません。異議や案があるならば、積極的に本部へ進言すべきです」

「異議や案がないからしないんです」

「袋の件や人件費のことなど、たくさんあるでしょう」

「ありません。それは井上さんが言っていたことでしょう」

「加茂ノ橋店にいるわたくしが言いました。よって、加茂ノ橋店の意見として発信すべきです」


 意味が分からない。

 井上は腕を振り払い、再びパソコンに触る。

 勝手に本部へメールを送ったとして、無視されるのが落ちだろう。むしろ無視してほしい。けれど本部の誰かが「何だこのメール?」と不思議に思い、マネージャーへ伝え、そこから店舗に話が降りてきたら厄介だ。

 通常、本部に直接メールは送らない。もし用があればマネージャーを通すのが一般的だ。間のマネージャーをすっ飛ばして本部にメールを送ると、マネージャーの機嫌を損ねることになってしまう。

 機嫌を損ねるだけならまだいいが、変な新ルールを作られても困る。

 いつか他の店舗では「マネージャーと喧嘩をした結果、開店から閉店までカメラで監視され、サボっていると怒りの電話がかかってくる」との話を聞いた。

 絶対に嫌だ。


「重森さん、重森さん」


 斉藤に呼ばれ、千奈津は走る。


「何?」

「あれ、どうにかした方がいいですよ」

「分かってるよ。直接本部にメールしてマネージャーから怒られたくないし」

「それもありますけど、あのタイプの人間は叱責されると極端な二パターンに分かれます」

「二パターン?」

「誰がやったんだ、と怒られた時。自分がやりました! 自分は間違ってません! 貴方がおかしいんです! と自分の正しさを大きく主張するパターンと」

「パターンと?」

「自分じゃありません! 自分は指示されてやっただけで、自分に責任は一つもありません! と堂々と責任転嫁するパターンです」

「……え、でも私止めてる立場なんだけど」

「重森さん、やばい奴はどんな時でもやばいんです。例え重森さんが、貴方が勝手にやったことでしょう、と反論しても、やばい奴は知らんぷりしますよ。そして重森さんは今、教育係ですからね。教育が悪い、と責められることだってあります」


 なんてこった。

 責任転嫁で責められるのは避けたい。

 如月と斉藤はこの場にいるから理解しているが、波瀬や海老原は千奈津を責めるだろう。

 そうなると人間関係に亀裂が入り、今後のバイトがしにくくなる。

 気まずい空気に耐えきれず、辞めるだろう。

 できればこのアルバイトは辞めたくない。気楽に働けて給料もそこそこいい。このまま続けたい。


 千奈津は急いで、井上の肩を掴んだ。


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