第29話
「作成者っていうのは、多分このデータをつくった人だから関係なさそうだな」
「細かいことまで全部あるね」
詳細データを開くのはきっと本部の人間くらいだ。店舗の、それもアルバイトが閲覧するようなものではない。
面白いものではないし、目が痛くなる。
「別に変なところはないな。詳細データじゃ分からないね」
「このイヤリングについての情報だけだもんね。売れない理由とか、店頭にある理由までは載ってないか」
「売れない理由は千奈津ちゃんも言ってたじゃん。安くてシンプルなのが流行ってるって。それだと思うよ」
「やっぱり? こんな高くてジャラジャラしたもの、身に付けてる女性を見かけないもんね」
千奈津自身、こういったデザインのイヤリングは一つも持っていない。
持っていたとしても、身に付けて出掛けることがない。
友達と遊ぶからと、これを耳に付けて待ち合わせに行ったとして「それ凄いね」と、褒め言葉ではない「凄いね」を呆れながら言われるだろう。
千奈津は再び画面に映るデータを読んでいく。
「へえ、デザインを考えた人まで載ってるんだ」
デザイナーに関心はないので、有名なデザイナーすら知らない。一人の名前も挙げることはできない。
大きなブランドに携わるデザイナーなら有名な人であるが、ニコニコショップのデザイナーは有名ではないだろう。そんな大層な人がデザインをしているとは思えない。
「可愛いデザインではあるよね。デザイナーなんて一人も分からないけど」
「俺も。世界的に有名な人しか分からない。えーと、デザイナーは……」
「砂川光昭。男性ですか。女性向けのイヤリングを男性がデザインするなんて...…うん?砂川?」
砂川。
その苗字に覚えがあった斉藤は、スマホを取り出して砂川光昭を検索する。
千奈津と如月は特に覚えのない名前なので、斉藤の検索結果を待つ。
「あ、やっぱりそうだ。多分、分かりましたよ。売れないイヤリングが店頭にある理由」
斉藤が名探偵のようだ。
一体どんな理由であのイヤリングを置いているのか。
その答えを、二人は関心のある顔で待っている。
「このイヤリングをデザインした砂川光昭は、株式会社スマイリーの社長の甥です」
デザイナーは社長の血縁者。
それだけですべてが理解できた。
「あー、そういうことね」
「なんだ、身内かよ」
一気に興味が失せた。
白けた空気になったが、斉藤は続ける。
「社長に子どもはいないんですよ。社長の弟には一人息子がいて、それが甥の砂川光昭です。社長としても甥が可愛いんでしょうね。他にも甥がデザインした商品があるみたいです」
「他にも……」
如月と千奈津は顔を見合わせ、斉藤が選んだトートバックの詳細データを出した。デザインしたのは、砂川光昭である。
「甥がデザインしたものだから店に並べてるのか。納得した」
「売れないけど甥がデザインしたから、親心で店に置いてるんだね」
「経営者としてどうかと思いますけど。まぁ、いいんじゃないですかね。時給が減ったら辞めます」
「「それは一緒」」
疑問が解決したので、三人はパソコンから離れた。
それにしても、年に一つ売れるか売れないかのデザインとは、逆に凄いことなのではないだろうか。
変なデザインではないし、売れそうに見える。
店のターゲット層からすれば二五二五円は高く感じるのかもしれない。
その値段のイヤリングを買った客はここ最近いなかった。デザインが駄目というよりは、価格設定がよくないのかもしれない。
トートバックはデザインが悪い。あのデザインでは買おうという人が少ないだろう。それでも売れたのは良心的な価格故だ。
「デザインはそこそこなのにね」
イヤリングコーナーで二五二五円のものを眺める。
「価格と店のコンセプトだろうね。二十代の女性がたまに来るけど、アクセサリーは買っていかないよ。この店で二五二五円を出して買うくらいなら、もっと綺麗な雑貨屋で買おうと思うんじゃない?」
如月の分析に千奈津は納得した。それもそうだ。
このモールの一階に、同じくらいの価格で売っているアクセサリー専門の店がある。そこはここと違って上品さが漂い、思わず立ち寄ってしまう。
上品な雰囲気の店で、「高いんだろうな」と値段を見ると「えっ、思ったより安い!」と驚愕する。そして客は買っていくのだ。
ニコニコショップは中高生をターゲットにしているので、店はチープな雰囲気だ。そこに二五二五円のアクセサリーがあっても、二十代の女性は遠慮するだろう。
中高生の間では安くてシンプルなアクセサリーが流行っているので、二五二五円のアクセサリーは見るだけだ。
「戦略が失敗したってこと?」
「中高生の間で派手なアクセサリーが流行れば、売れるんじゃないですか?」
「……流行るのかな」
「流行はどんどん変わっていくので、ワンチャンあります」
「如月くんのお陰で売れるかもしれないしね」
ははは、と笑ったが笑いはすぐに途切れた。
「……売れると思う?」
「微妙ですね。値段と流行を考えると、中高生には買えないですよ」
「二十代の女性が買うってことは?」
「年下好きな女性なら、如月さんを見て購入を決めることはあるかもしれませんが……望み薄ですね」
「はぁ、如月くん効果は期待できないね」
「トートバックなら安いですし、購入する客がいますよ」
「うーん、写真を撮っておいてこういうこと言うのはどうかと思うけど、でも、いくら如月くんがイケメンだからって、あんなダッサい鞄を買いたくはならないなー」
如月の綺麗な顔でトートバックを紹介していても、鞄に魅力がない。あの写真が購買意識を刺激することはできないだろう。
「俺、撮られ損じゃん」
ぽつりと呟いたが、二人は話を続けていた。




