第26話
制服を着た女子高生たちが店内に入ると、ちらちらと如月に視線をやりながら話をしていた。
如月が出勤しているとよくある光景なので、千奈津は特に気にしていなかったのだが、そのうちの一人が「あのぉ」と如月に声をかけた。
まさかナンパか。
千奈津と斉藤は女子高生の声かけに聞こえていない振りをして、如月から距離をとった。
商品を整えながら耳だけ如月と女子高生の方へと集中させる。
「はい、なんでしょう」
優しそうな声色で接客し、愛想よく口角を上げた。
「あ、えっと、その」
恥ずかしいのか、言いにくそうだ。
じれったく思った他の女子高生が「お兄さんはインツタやらないんですか?」と元気よく声を出した。
よくある現象なのだが、店内に客が一組入ると、それに続いて客がどんどん店に入ってくる。誰もいなかった店内だが、如月に話しかけている女子高生たちが入ってきた途端、我も我もと客がやってくる。
女子高生の「インツタやらないんですか?」という声は他の客にも届いていたようで、ちらちらと如月とその周りにいる女子高生を意識している。
皆、興味があるのだ。
如月がインツタをやらないのか、どうなのか、その回答を待っている。
「あ、インツタあったよ。本当だ、あの店員さんの写真はない」とこそこそ話しているのが千奈津と斉藤にも聞こえる。
店内に大きく「インツタ始めました」と主張しているのだから、そのインツタにあのイケメンは載らないのかと、気になっているのだ。
「うーん、今のところ、その予定はないんですよ」
申し訳なさそうにする如月だが、千奈津と斉藤は「その予定をつくろう!」と飛び出しそうになった。
女子高生が望んでいる。恥ずかしながらも勇気を振り絞って訊ねようとしていたのだ。そして周囲の人間は聞き耳を立てており、如月のインツタ需要はありまくりだ。
写真を撮って投稿するだけなので手間ではない。いい暇つぶしだ。
インツタの投稿をするかしないか訊かれているのに、中間の返答をするなんて。
この前、千奈津と斉藤が如月の写真を撮って投稿しようと、イヤリングやトートバックを選んでいたところだ。その際は拒否することなく話が進んでいた。
「僕が勝手に投稿することはできないので、すみません」
千奈津と斉藤は「嘘を吐くな!」と飛び出しそうになった。
波瀬の管理提案を「要らないと思う」と言っていたばかりだ。
「でも、そういう意見があったことは伝えておくね」
「は、はい!」
誰にだよ。
千奈津はそう思ったが、斉藤は何やら深く考え込んでいるようだった。
女子高生たちは如月から返答が貰えると、何も買わずに店から出ていった。
それにつられ、他の客も後を追うようにしていなくなり、店内はまた静寂が訪れた。
「ちょっと、如月くん」
考え込んでいる斉藤を放置し、千奈津は如月の肩を叩いた。
「爽やかに嘘ついてたでしょ、見てたよ」
「知ってる。すごく視線を感じてた」
「如月くんって勝手に投稿できないんだ?」
「そうそう。波瀬さんが管理するらしいから。皆の意見をまとめてくれてる最中なんでしょ?」
ははは、と如月は笑う。
「そこは、じゃあ投稿してみようかな、って言うところじゃないんだ?」
「面倒じゃん。いつ投稿するかも分からないのにそんなこと言ったらさ、いつですか?まだですか? ってしつこく聞かれるのが目に見えてるよ」
「そりゃそうか」
「投稿しない、とは言い切れないじゃん。本部からのメールに容姿がいい人の写真、って書いてあったから、いつ俺の写真を撮られるか分からないし」
「おぉ、自意識過剰発言だけど、納得してしまう」
「投稿するね、って言って投稿しなかったら俺が責められるから、するとも言えないよね。俺、悪者になりたくないからさ。そういう意見があったって伝えておくね、って言うと投稿がなくても、会社の上の人がそうしてるんだな、って思ってもらえるでしょ」
「悪知恵がよく働いてるね、如月くん」
直接手を下さない悪役が似合いそうだ。
「俺の好きな言葉知ってる?」
「えー、なんだろう。美辞麗句、容姿端麗、才色兼備」
「なんで四字熟語?」
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」
「俺、いつから女になったの」
「女装もいけると思って。で、正解は?」
「責任転嫁」
「最低じゃん」
最低、と吐き捨ててみるがよく考えると甘い響きである。責任転嫁。誰かに責任を押し付ける。押し付けられた方からすればたまったもんじゃないが、押し付ける側からすれば肩の荷が下りるので最高だ。
そういうのよくないよ、と咎めることはできない。
「如月さん、僕、考えてみたんですけど」
思考が終わった斉藤が離れたところから戻って来て、如月の前に立つ。
「違ったら教えてください。悪口のつもりではなくて、もしかしてそうなのかな、と思っているだけなので」
言い訳のように前置きをし、斉藤は手を顎に当てて考えを述べる。
「さっきの、女子高生と話していたことについてですけど」
「うん、何?」
「女子高生との今後の絡みを考慮して、面倒事を回避するために投稿予定はないって言ったんですか? 意見があったことを伝えておくね、というのは責任逃れというか、自分は何も関係がないと主張するための嘘ですか?」
さすが鋭い。
千奈津が如月を盗み見ると、顔が引きつっていた。
図星です。そう顔に書いてある。
「やっぱりそうなんですね。さすがです」
大きく頷いた斉藤に、如月は黙ることで肯定を示した。
如月の本性を確信した斉藤は、自分が感じていたことは間違いではなかったと、小さくガッツポーズをした。




