第24話
「如月先輩ですか?」
「如月くんなら適任でしょう」
千奈津の台詞に、波瀬は否定できない。如月の性格、顔、通っている大学、すべてを思い起こした波瀬は黙り込んだ。
「……で、でも、如月先輩は忙しいので、負担をかけるようなことはよくないと思います」
「仕事は皆、そこまで忙しくないと思うけど」
「仕事じゃなくて、プライベートですよ。重森さんには分からないと思いますが、大学三年生は卒論を書き始めるんです。だから忙しいんです」
「如月くんが学業で忙しくなったら、管理する人を変えたらいいんじゃないかな?」
「それだと手間じゃないですか。引継ぎとか色々あると思うので、最初から手が空いている人が管理をすればいいんです」
「最初から手が空いてるってなると、フリーター?」
再度波瀬は黙り込んだ。
今、バイトの中でフリーターなのは剛馬と千奈津である。剛馬はモデルもやっており、シフトは朝がほとんどなので他のバイトとあまり関りがない。
千奈津は昼からラストまで入ることができ、バイトの掛け持ちはしていない。
そうなると、必然的に千奈津が管理することになる。波瀬としては一番気に食わないだろう。
「あたしはまだ二年生なので、あたしでもできます」
「でも来年は卒論があるんだよね?」
「別に、卒論があってもバイトくらいできます」
「へえ、そうなんだ。じゃあ如月くんもできそうだね」
言い返す言葉がないのか、口を結んでいる。
なんだかいじめている気分になり、千奈津は周囲を見渡す。誰にも見られていない。良かった。
店員がいじめをしている、なんて囁かれたくない。
「まあでも、管理が必要かどうか皆に聞いてみないと分からないんで」
「そうだね」
「話がまとまったら、また教えます」
「うん、お願い」
勝った。
波瀬の背中に向かってガッツポーズをし、清々しい笑顔で客に「いらっしゃいませー」と声を上げる。
二人の会話が終わったことに気付いた斉藤が千奈津の傍に来た。
「大丈夫でした?」
「うん」
「何を言われたんですか?」
「インツタの管理を波瀬さんがやる、って話」
「管理?」
「皆がたくさん投稿するとよくないと思ったみたいだよ」
「今のところ、一番多く投稿してるのあいつですけど。今日も絶対何か投稿しますよ」
「そうだろうねぇ」
「それで、どうなったんですか?」
「如月くんが管理者に向いてるよね、って押し通したら、管理をするかどうかは皆の意見を聞かないといけないから、話がまとまったら教えてくれるらしいよ」
「って言いながら、皆に意見を聞かないパターンですね」
「決めつけちゃ駄目だよ。いつか教えてくれるかもしれないんだから、待っておこう」
勝った千奈津は気分が良い。
今は心が寛大だ。
「忘れた頃に、そういえばあの話どうなってるの? って皆の前で言いましょう」
「うわぁ、恥ずかしくなるやつ」
「なんかインツタの管理をやりたいみたいですけど、皆どう思いますか? って大きな声で言ったらどうなりますかね」
「海老原くんは、いいよって言いそう。如月くんは苦笑いしながら優しく反対するんだろうな」
「バイトの中で一番発言力あるの如月さんですからね。如月さんの答えがすべてですよ」
「斉藤くんって如月くんのこと好きだよね」
「イケメンで優男なだけじゃないところがいいですよね。如月さんって割と腹黒いのかなって思ってます」
斉藤の鋭さには参る。
「あの女に対する態度を見ると、好ましく思ってない感じですよね。優しいですけど、なんというか、避けたいのかなって思う時があります」
「斉藤くんはよく人を見てるよね」
「敏感なんですよ。昔、いじめられてた時期があって、その頃は顔色を窺いながら学校生活を送っていたので」
「そうなんだ」
素っ気ない返ししかできなかった。
いじめられていた、という告白されてどういう反応をするのが正しいのか千奈津は分からなかった。
しかし斉藤はいつも通りである。本人にとって重大な告白ではなかったようだ。
過去のことだと割り切っているのだろう。それならばよかった。
「明日は僕と重森さんと、如月さんの三人ですよね」
「そうだっけ?」
「はい。管理の話、如月さんにもしてみたいです」
くくく、とにひるに笑う。
波瀬のこととなると斉藤は嫌悪を露わにするが、それと同時に楽しげな声を出す。
性格が悪い。その一言に尽きる。




