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第19話

 千奈津が十四時に出勤すると、一時間後にマネージャーがやってきた。

 久しぶりに姿を現したマネージャーは相変わらずひょろひょろで、絶対雑貨に興味ないだろうと突っ込みたくなるような見た目をした男性だ。

 偏見だが、きっと学生時代は卓球部に所属していたと思う。


「重森さん、早速ですがSNSについてです」


 挨拶もなくいきなり本題から入る辺り、長居をしたくないのだと悟った。

 黒縁眼鏡を中指で押し上げると、年季の入った鞄からファイルを取り出して千奈津に渡した。


「これはマニュアルです。詳しいことはそちらに書いてありますし、若い子の方が扱いに慣れていると思うのでインツタの使い方は省きます」


 インツタは主流になっており、同世代で使っていない子の方が少ない。

 千奈津もバイト仲間もプライベートでインツタを利用しているので、使い方の説明は今更だ。


「簡単に説明すると、インツタで商品を紹介してください。投稿の間隔が一週間空くなら構いませんが、それ以上間が空くのは止めてください」

「はい」


 マニュアルを開いてみるが、マネージャーの話が進んで行くので聞くことと読むことを並行してできない。


「他店舗では店員が商品を紹介したり、店内ツアーをしていたり様々ですので、インツタで他店舗を検索して参考にしてください」

「はい」

「著作権についてはマニュアルを読んでください。取り敢えず、他店舗を参考にしていれば間違いはないので、やる気がなければ真似するだけで構いません。以上、何か質問はありますか?」

「ありません」

「それでは」


 滞在時間五分で去って行った。

 やはり緩いな。

 やる気がなければ、なんて社員がアルバイトに言う言葉だろうか。


 マニュアルを開くと写真やイラスト付きで見やすく、分かりやすい。

 すぐに読み終わると、インツタで近隣店舗のアカウントを探し出す。

 近隣地方ではまあまあ知られている会社だが、全国展開はしていないため、フォロワーは少ない。千奈津たちの店舗のアカウントは作成されているが、未だフォロワーは零である。フォロー欄は、ちゃっかり全店舗の名前がある。


 店舗の写真をアイコンにし、マニュアルに記載されている通り、「インツタ始めました」という張り紙を店の数か所に貼り付けた。

 まだ何の投稿もしておらず、夕方のバイトたちが来てからやることにした。


 暇を持て余しているので、他店舗の投稿を漁り、どんなものかチェックする。

 小物を身に付けた店員がポーズをとっているもの、商品だけを綺麗に撮っているもの、商品関係なく店員が楽しそうにしているところを撮影したもの、様々である。

 商品を撮ってよし、店員を撮ってよし。何でもしていいということだ。


 他店舗の投稿を眺めて思ったが、絶対に皆暇だろう。

 凝った写真が多く、投稿頻度も高い。

 一日に五回も六回も投稿している店舗があり、暇そうだ。

 インツタはいい暇つぶしになるのか。それはとても嬉しい。


 夕方のメンバーが来るまで待とうと思っていたが、暇すぎて最近コラボした商品が並んでいるスペースで写真を撮る。

 綺麗に撮れるまで何度も撮り直し、記念すべき初投稿を行った。


[こんにちは。ニコニコショップ ヨヨンモール加茂ノ橋店です。今日からインツタ始めました。よろしくお願いします]


 最後に可愛い顔文字を選んで投稿した。

 それからはインツタを放置して、店内を歩いたりスマホをいじったり、いつも通りの行動をした。


 時計が十七時を示すと、斉藤と如月がやってきた。

 普段から仕事が少ないため、二人は興味津々にSNSのことを千奈津に訊ねた。


 千奈津は軽く説明すると、二人はインツタで千奈津の投稿と他店舗の投稿を調べた。


「インフルエンサーみたいなことをしてる店舗が多いですね」


 可愛い店員が顔の横で商品を持っている写真を、斉藤は鼻で笑いながら眺める。


「商品の紹介というよりは、こんな可愛い私がこの店舗にいますよってアピールしてるみたいですよ。承認欲求の塊ですね。割とどの店舗も、可愛い私を見てくれ、イケてる俺を見てくれ、って感じの投稿が多くて気持ち悪いです。全然可愛くないし、恰好よくもない。あ、これなんて見てくださいよ、どう見てもブスなのにこんなポーズしちゃって、恥ずかしくないんですかね?」


 男性が項に手を当てて見下ろしている写真だ。紺色のチェック柄のシャツとジーンズを身に付け、少し前に発売されたコラボ商品のウエストポーチを腰に巻いている。白い靴は汚れて茶色が目立っており、髪も眉毛もぼさぼさだ。

 千奈津と如月はその写真を擁護できない。

 斉藤に共感してしまったからだ。

 これが如月のような男性ならばそこまで変に思わなかっただろうが、何の手入れもしていない男性だと、痛々しくて見るに堪えない。


「僕はこんなことできません。自分を客観的に評価できないとこんな風になるんですね。フォロワーはそんなにいないから、この投稿に対してコメントが一つもないですけど、誹謗中傷されそうな写真ですよ。削除した方がいいって教えてあげましょうか?」

「やめてやめて。他店舗のことは放っておきましょ」

「そうですね。いいね押しておこう」

「斉藤くん……」

「だって気になりませんか? 醜態を晒していることにいつ気づくのか、興味あります。あとコメント欄も気になるので、今後の動向を追っていきます」


 斉藤はその店舗の他の投稿もチェックする。


「なんか、恰好いいですねっていうコメントを待っているかのようですね。僕がコメントしてあげようかな」

「絶対にやめて」


 うずうずしている斉藤の腕を掴み、千奈津は首を必死に横に振る。

 そんな二人を横目に、如月はパソコンを立ち上げて本部からのメールを確認していた。


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