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第17話

「なんっで私が加害者なの」

「そんなつもりじゃないっす」

「大体……はぁ」


 如月と海老原は正反対である。

 如月は人をよく観察しているので、波瀬がどんな性格でどういう思いから行動しているかある程度理解している。だからこそ、波瀬を好ましく思っていない。

 しかし海老原はその逆で、表面しか見ていない。波瀬が「重森さんに嫌われてるかも」と落ち込みながら言えば「そうなのか!」と思い、「重森さんにいじめられてるの」と言えば「そうなのか!」と思う。そんな人間である。


 波瀬め。純粋な海老原に思ってもないことを言うな。


「波瀬さんのことは嫌ってないよ」


 半分嘘だ。

 嫌いと断言する程嫌いではないが、かといって好きではない。

 苦手だ。

 しかし、ここで「苦手なんだよね」と言えば海老原は波瀬が正しいと思い込むだろう。

 それは避けたかった。


「本当ですか?」

「本当だよ。それに、その場には如月くんもいたから、気になるなら如月くんにも聞いてみて」

「大丈夫っす!」


 そこまでの興味はなかったようだ。


「あのお客さんたち、ずっとあそこにいますね。買ってくれんのかな? ちょっと行ってみます」


 女子高生が一か所に集まり、可愛いと連呼している。

 それが気になったようで、買わせようと女子高生の元へ行ってしまった。


 楽しそうに談笑する海老原たちを眺めていると、斉藤が隣に立った。


「重森さんも大変ですね」

「海老原くんは信じやすいから」

「あの女、海老原が扱いやすいからって……性根が腐ってますよ」

「またそんなこと言って」

「重森さんなら知ってますよね。あの女、如月さんには女の顔をして、海老原には弱い姿を見せて、僕には優しい顔をするんですよ」


 人によって態度を変える分かりやすい例だ。

 この人はこういう性格だから、こういう態度で接しよう。そんな計算がされている。


「すべての男に好かれたいんでしょうね。僕なんかにも態度を変えるくらいなんで」

「それで人間関係が上手くいってたらいいんだけどね」

「あの女がいなかったら人間関係良好です」


 嫌悪感丸出しの斉藤に苦笑するが、波瀬のフォローはできない。


「あの女が必死に尻尾振ってるのに、如月さんに相手にされていない姿を見ると凄く嬉しいんです」

「斉藤くんもいい性格してるよね。波瀬さんに直接嫌なことされたわけじゃないでしょ」


 いじめられたとか、悪口を言われたとか、そういう事実はないだろうに、そこまで嫌悪しなくてもいいのでは。

 嫌う気持ちは理解できるので、否定はしない。


「重森さんって、偽善なところありますよね」


 斉藤は千奈津を見透かすように言った。

 偽善か、的を射ている。

 面倒事は避けたい。そのためには進んで嫌われるようなことをしない。

 そうすると偽善者になっていく。

 人間関係は良好であるに尽きる。偽善がないと良好にはならない。


 如月には波瀬が好ましくないことを伝えておいて、斉藤には「直接嫌なことされたわけじゃないでしょ」と言う。

 如月と波瀬の話ができるのは、如月と千奈津が良好な関係を築いており、互いにこの話は誰にも話さないだろうと確信しているからこそだ。

 しかし斉藤と千奈津はそうではない。斉藤は一つ年下で、なんでも話せるような仲ではない。そんな斉藤と波瀬の悪口で盛り上がることはできない。

 斉藤が「重森さんが波瀬さんの悪口を言っていました」と言いふらすかもしれない。そんな不安定な仲で、偽善混じりになるのは当然のことだ。


「偽善の何が悪いの?」


 人に好かれたい、自分を良く思ってほしい。そんな願望を抱いている人間が多数だろう。

 だから遠慮や配慮をしながら生きているのだ。

 偽善が悪いことだとは、これっぽっちも思っていない。


「……すみません、怒りました?」

「ううん、怒ってないよ」


 怒っていないが、怒っているような言い方になってしまった。

 上目遣いに様子を窺う斉藤に「ごめん、言い方がきつかったね」と謝罪する。

 斉藤は「まあ……」と肯定的に示した。


「話を戻しますけど、僕はあの女に直接嫌なことをされたわけじゃないですけど、態度で分かるんですよ。この女、僕のことを下に見てるんだなって」


 私も下に見られてるよ。生意気って言われたよ。

 そう共感したかったが、ぐっと堪えた。


「如月さんに媚びを売るのは分かります。如月さんは恰好いいし、好かれたいんでしょうね。クソビッチみたいに擦り寄る気持ちは理解できませんが理解できます」

「どっちよ……」

「海老原に弱い姿を見せるのも分かります。あいつは素直だから、何でも本気に受け止めるので利用しやすいんでしょうね。あんなことされた、こんなことされた、って泣き付けば味方をしてくれますから」

「そうだね」

「じゃあ、僕は何だと思います?」

「何、って?」

「どうして僕には優しくするんだと思います?」


 斉藤の話だと、波瀬が態度を変えるには理由がある。

 如月には好かれたいから、海老原には味方してほしいから。では、斉藤はどうか。

 斉藤に優しくすると、波瀬にどんなメリットがあるのか。



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