第五話 仕置き
路是の発端となった井黒では照明も制限された。その方が住民も穏やかに過ごせると忠告を受けた。井黒はその通りにした。町の中は暗いが不思議な穏やかさがある。照明魔法を手にして歩く姿は白井と同じだ。
駆は一人、夜の松尾の町の中を歩いていた。ここに来たことにはもう一つ理由がある。保堂陰。保堂家当主の館がある。古びた木造の館だ。竜の紋がある。灯籠がともる奥の座敷から声が聞こえる。駆は庭の影で耳を澄ました。
「陰様、差し入れに御座ります」
「いつもすまぬな」
「いえいえ、今後とも矢沢組をご用命下さいますよう」
「わかっておる」
菓子折りの菓子の下には金貨が詰まっていた。矢沢組は建築会社だ。大きな仕事はいつからか、最大手の重蔵建築ではなく矢沢組にいくようになった。内務大臣の立場を利用した収賄行為だ。
ろくな人材がいないなこの国は。
十五年前に有能なものは体を張って死んだ。生き残ったのはこのような下らぬ大人ばかりだ。一つ一つ片付けていかなくてはならない。
冬士郎が抱える若者たちが使えるようになるまでまだ時間がかかる。それまでにドブ掃除をしなくては。
「よう、夜分に失礼するぞ」
部屋に土足のまま上がり込んだ。
「な、何だ、貴様は!」
「か、駆! くそ」
「現行犯だ。こいつは預かるぜ」
菓子折りを取り上げた。
「明日から牢屋だ。今夜は最後の安眠を噛み締めるんだな」
「くそっ、出あえ!」
陰が叫ぶと音もなく数名の着物を着た男たちが現れた。刀を差している。
「やれ! こいつは長年の目の上のこぶだった。けりをつけてやろう」
「よろしいのですか」
「構わん、切って捨てろ」
五人のうち、一番前の長身の男が刀を抜く。
「いざ、参る」
八相の構えから切り掛かってくる。
ギイン
駆の目の前で刃が弾かれる。閉鎖陣形だ。
「むう、こしゃくな」
長身の男は刀を納め、素手の構えを取った。
「この、くそドブネズミ!」
囲炉裏に刺してあった鉄の菜箸を一本握り、スキルを放った。
針夜。
ドッ
逆手に握った菜箸に左手を添えると、陰が血を吹き出して倒れた。
「ヒッ」
「この国で悪事を働くならそれだけの覚悟を持つんだな」
「ヒイ、どうか、ご容赦を!」
「な、何事!?」
隣の部屋から騒ぎを聞きつけて息子と思われる男が出てきた。
「ち、ちちうえ!?」
ドッ
駆は陰にすがりつく息子の腹を思い切り蹴り上げた。
「お、ゴボオ」
嘔吐してその場で気絶した。
「おい、女がいるだろう。あとで全員に話を聞く」
長身の男に言う。
少し俯いた後、頭を下げて男は後ろに下がった。
武たちがいないだけでも辛いところだ。その上でこんな小物たちがのさばっている。国の威信を取り戻さなくてはならない。
「お前は監獄行きだ。逃げられると思うなよ」
矢沢に向かって言う。
「ヒイ、そんな」
これで少しは綺麗になった。
あとは冬士郎に報告して処分を待つだけだ。




