転校生
「ねぇ、ねぇ、お母さん!魔女って本当にいるの?」
幼い頃の僕が指で魔女の絵を指しながら、好奇心旺盛な目でお母さんに問いかけている。
そんな僕の問いに
「えぇ、いるわよ。その魔女はね...」
その時、チャイムが鳴り、目が覚めた。
(お母さんがいた頃の夢か。久しぶりに見たな...それにしても魔女か...)
そんなことを思いつつ、だるい体を起こした。それと同時にガラガラ...と教室のドアが開く音がし、先生が教室に入ってきた。
「みんな席に着け。え〜、今からホームルームを始めようと思うが、その前に転校生の自己紹介をしようと思う。」
先生がそう言った途端、クラスメイトが騒ぎ出し、「どんな子だろー」 「男子じゃなくて女子がいいな」 「転校生2人目だなぁ」などいろんなことを言っている。そんなクラスメイトをしずめるべく
「みんなが興奮するのは分かるが、話が進まないから落ち着けー。じゃ、水谷入ってきていいぞ。」
と言い、ドアの方にみんなが視線を向けた。
そして、本日2度目のガラガラ...と教室のドアがして、1人の少女が入ってきて、
「水谷 ゆかり...よろしく...」
とぶっきらぼうに言い、ショートカットの黒髪を揺らしながらお辞儀をした。
それにみんながどう反応したらいいのか分からずポカンとしている。
「えーっと水谷、自己紹介はそれだけか?」
と先生は困惑しながら言ったが、その問いに
「はい。それよりも私の席はどこですか?」
という始末だ。
先生はため息を吐きつつ、「あの席だ。」と僕の隣の席を指で指しながら言った。先生に言われた通り、水谷は僕の隣の席に座り、ホームルームが始まった。
この時の僕らは、まだ知るよしもなかった、この転校生が人間じゃないことを。
「えー、この方程式解ける奴いるかー?」
「先生、こんなの簡単過ぎますよぉ〜」
「じゃー答えてみろー」
「2ぃ〜」
「はい、違う違う。」
「えーー!」
そんな、やりとりをクラスメイトが見て、クラス中に笑い声がとんだ。そんな数字の授業をぼんやりと聞きながらさっきの先生の話を思い出した。
ホームルームが終わり、1時間目の準備をしていたら、先生が僕の席に来て
「片山ー、すまんが水谷の学校案内をしてくれないか。ある程度のことは教えているが、まだわからないことがあるかもしれないから教えてやってくれ。水谷にはもう言っているからー。じゃ、片山、よろしくなー」
と僕に言うだけ言い残して、教室を出ていった。その後すぐに数学の授業が始まり、今に至るわけだ。
(それにしても、学校案内か...だるいなー)
そんなこと思いながらつまらない授業をぼーっときいた。そんな僕を水谷が見ていることも知らずに...