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惨禍を喰らう  作者: 鵜山鶏五
2/6

家に着いた奏は部屋着に着替え、テレビの電源を点ける。

バイトまで時間があるのでテレビをBGM代わりにし、携帯を触っている。


テレビから聞こえてきた単語を聞き、携帯からテレビへと視線を変えた。

なんでも他所の県で通り魔が出たらしい。

怪我人は少しは居るようだが、いずれも軽傷で済んだらしく、犯人も逮捕されたようだ。


「ここら辺でも出たんだよな、通り魔」

ついさっきの尼井との会話を思い出し、携帯で地名と通り魔で検索した。


直ぐに見つかり、記事に目を通す。

襲われたのは深夜という事と、それ以外は尼井が言っていた事が書かれている。

ただ被害者の襲って来た相手の特徴は覚えていないらしく、犯人の特徴は一切不明と書かれていた。

「やっぱ気を付けようが無いな」 

記事を見ながら独りごちる。

夜道を漠然とした恐怖や不安を抱えながら帰る事になりそうだ。

だが、そんな理由でバイトを休む訳にもいかない。


奏は二階建てアパートの奥の角部屋で一人暮らしをしている。

幼い頃に両親を亡くし親戚の家を転々とし、9歳の時に名護家に迎え入れて貰い育ててくれた。

が、中学3年の夏に

『高校に入ったら一人で暮らせ』

家主である名護次郎(なごじろう)の一言で一人暮らしを

余儀なくされた。


住む場所はある程度決めさせてくれた。

おかげで高校からは徒歩数分と近い所に住んでいる。

食費や携帯代、光熱費等は自身で賄わなければならない。

社会勉強の一環だ、と言っていた。

幸い学費と家賃は名護さんが払ってくれている。

バイトの時間が近付いてきたので、支度を始める。


玄関を出て鍵を閉める。

苦学生には自由に出来る時間が少ないな、と溜息を零しながらバイト先に向かう。





バイトが終わり帰路に着く。

11月は昼間は比較的暖かいが夜は冷込む。

「服、間違えたな。」

寒さに体を縮ませながら歩いていく

バイト着に薄手のパーカーでは、この寒さに耐えることができない

急いで帰る為、信号の多い大通りではなく裏道を使う。

住宅街にある大きな公園から10分程歩いたら家に着く。

「自転車でも買おうかな、貯金にも余裕あるし。」

歩きで20分は辛いな、なんて思っていたら公園の近くまで来ていた。

近道の為、公園を横切ろうとした時、奏は公園の中央に居る人影を視認した。


背丈やシルエットから女性だと思われる。

女性は奏に背を向けており、その場に立っているだけで微動だにしない。

不気味に思い距離を取る為、公園の端を歩く。

こんな時間に1人で何をしているのか多少気になり、通過しながら横目で影を横目で見ようとする。

と、先程まで背を向けていた女性が奏の方に体を向けていた。

黒いパーカーにジーンズとシンプル格好をしており、フード深く被って上着のポケットに手を入れている。

顔は見えないが確かにアレから視線を感じる。

薄気味悪く感じ、直ぐに目を背けてる歩く速度を早める。

公園を出て歩道を歩いていると、奏のとは異なる足音が後ろから聞こえる。

足を止め振り返ると女性が公園から出て此方に歩を進めていた。


思わず息を呑む。

女性との距離は10m程、未だ顔は見えない。

正体不明の通り魔。


学校で友人から聞き、家で調べた事で無駄に不安を掻き立てられているだけかもしれない。

女性はただ公園で時間を潰していただけで、何事も無く横を

通り過ぎるかもしれない。

だが段々と距離を詰められる事に言いようの無い恐怖を感じている。


女性はポケットに入れらていた両手を取り出す。

「―は?」

隠されていた手を見て思わず声が出る。

灯りで見える手は陶器のような表面で光沢があり、真っ白で人の質感が無く、右手は指先が全て欠け、指の関節には球状の物が埋め込まれている。

左手に至っては手首から下は欠けて無くなっており、断面は歪で亀裂が入っている。



とても人とは思えない、こんな人間が居る訳が無い。

更に近付き両者の距離は5mまで詰められていた。

今までフードで見えなかった顔もこの距離ならはっきり見える。


目は青く、金色の髪、顔も手と同様に白く、生命を感じさせない。

これでは人ではなく西洋人形と言った方が良いだろう。

ガチャン、と女の右手側から音がした。

女の顔から右手に視線を移す。

欠けていた指先に円錐状の何かが突き出ている。

街灯に照らされる指先は鈍く光っていて、刃物を連想させる

目の前のモノがなんなのか、理由も分からないが急いでこの場から逃げなければと殺される。


防衛本能に従い逃げようとする。

が、奏の初動より女の方が早かった。

跳躍し距離を詰めるられる。

引かれている右手は閉じられ、指先は此方に向けられている。

腕を伸ばせば触れられる距離まで接近され、女の右腕が奏の顔めがけて打ち込まれる。

「―ッ!」

咄嗟の事に首を右側に傾ける。

女の右手の親指が頬を掠め、顔の真横で止まっている。

既の所で回避出来たが、まともに喰らっていたら顔面に無惨な事になっていただろう。

だが、これだけで攻撃が止む事は無かった。

顔の横にあった女の右手は振り下ろされ、左肩を掴まれる。

「いっ‼︎」

痛みに思わず声を上げる。

5本の指は左肩に突き刺さっている。

「ふざけんなっ!」

右足で力一杯、女に腹目掛けて蹴りを入れる。

女は吹き飛び、地面に激突し倒れ伏す。

が、倒れ伏していたのも一瞬で、直ぐに起き上がろうとしている。


このまま此処にいたら不味い。

女を背に家に向かって走り出す。

走りながら先程の攻撃で掠めた左頬に指を這わせる。

痛みとぬらりとした液体の感触。

這わせた指を見ると血が付着している。

左肩を見ると掴まれた箇所は服に穴が空いていて、血が滲んでいた。


「何っだよ、これは!」

意味が分からないと心の中で叫ぶ。

襲ってきた奴は凡そ人と呼べるものではない。

本当に人形なのではないだろうか。

だが、人形がひとりでに動く訳も無し、そんなモノに命を狙われる筋合いは無い。


あれだと事件では無く、怪事件としてもっと取り沙汰されていいだろう。

「そうだ、警察」

気付き携帯をポケットから取り出すが圏外と表示されている。

「くそっ、何でだよ!」

タイミングの悪さに思わず声を荒げる。

携帯を仕舞い、家に向かい走る事に専念する。



アパートが見えたのと奏の体力が尽きるのは同時だった。

膝に手をつき乱れた息を整える。

気が動転しながらの約4分の全力疾走で体は限界を訴えている。

振り向き、撒けたかどうか確認する。

人形の姿は見当たらず、足音も聞こえてこない。


「はぁ、良かった」

安堵の息を漏らす。

アレが何だったのか、どうして自分が襲われたのかは分からないが、なんとか生きている。

家も知られずに済んだ。


「暫くは大通りを使おう。」

夜の外出を控える事は出来ないが、人目につく所で襲われる事はないだろう。

家で通り魔の事を調べた時、人通りの少ない道で被害に合ったと記事には書いてあったし、あんなのが人目につく所で暴れていたら世紀に残る怪奇事件になるに違いない。


息も整ってきたので歩き始める。

息切れしている間に襲われ無かったら事から、完全に此方を見失ったに違いない。


「服、どうしたもんか」

人形に掴まれた左肩を見る。

深く突き刺さった訳では無く、血も止まっているが、上着には穴が空いており、血が滲んでいる。

この様子では下のシャツも似たような惨状だろう。

これでは捨てるしかない。


「てか、手当てもしなきゃだよな」

家には救急箱があるので簡単な治療は出来るが、治療時に滲みるだろうな、と今から気が滅入ってしまう。

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