《椅子》 《怪物》 ほか
《晩餐》屋上の手すりに寄りかかってワインを飲む。この世で最後の一杯だ。不思議と恐怖はない。ためらいもない。むしろ解放感で一杯だ。僕はもう1500年も生きてきた。いや死ねなかったという方が正しいだろう。それがあの少女と出会ったおかげでやっと眠りにつく事が出来る。永遠の眠りに。
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《いつまで走る》走る。雪の大地を、火の大地を、怒りの大地を、悲しみの大地を。でもまだ到達できない。死の大地へは。
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《スペシャル》スペシャルな両親から生まれ、スペシャルな学生時代を過ごし、スペシャルな会社に就職したあと、スペシャルな女と結婚した僕。でも死に方は平凡だった。
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《ぐるぐる》洗濯機がまわっている。ぐるぐるぐるぐる。僕の人生もまわっている。ぐるぐるぐるぐる。このまま洗濯機を覗いていられればいいのに。そうすれば幸せもないけれど不幸もない。そうなればいいのに。そうなればいいのに。ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。
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《風景》車窓には風景が流れる。みなれた風景。毎日過ごした風景。僕が生きてきた証。でもさっきからは見知らぬ風景が流れている。僕が経験したことのない風景。それは死の風景。
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《真実》僕がザント星に転勤になってから4年。最近は何とかこの星の環境にも慣れてきた。気候自体は地球とさほど変わらないが、そこに生きている植物や動物は全然違う。環境が同じでも進化の過程は相当違った様だ。でも僕はまもなく真実を知る事になる。本当はザント星など無いって事を。
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《椅子》その椅子は長年ボクに仕えてくれた。古くなり壊れかけたこともあったけど、修理を重ね、今までよくもってくれた。でももうダメだ。さすがに直せない。ボクは物に思い入れをするほうではないので、その椅子をサラっと捨てた。次の日、ボクは会社にサラっと捨てられた。
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《道連れ》二人で夜道を歩く。道連れは凶暴そうな男。さっきから悪態ばかりついていて、ボクのほうを見ようともしない。ボクだって、こんな男とは歩きたくない。せっかくの月夜なんだから。でも贅沢は言えないんだよね。魂は誰の物でも同じだから。死神のボクとしては黙って連れていくだけ。
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《人生》その破滅は突然起きた。ボクのほかは皆しんでしまい、しかも幽霊としてボクのまわりにあふれている。ボクだけ生き残ったのは幸せだったのかな。このまま幽霊を見続けて過ごす一生。
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《怪物》怪物が僕の首を絞めている。悲しそうに苦しそうに。僕は黙って怪物に従う。逆らえないわけじゃない。でもその怪物の気持ちがわかるから。女房という名の怪物の気持ちが。




