《絆》 《占い師》 ほか
140字以内のショートショート第32弾。
《苦笑》
この時代、益々、就職難となっている。俺もバイトをしながら就活をする日々だが、スマホには今日もお祈りメールの山だ。晩飯を食べテレビを見ると、人生の閉じ方の話題が流れている。「あぁ、このまま"就活"しながら、"終活”もしなけりゃいかんのか…」つまらぬ駄洒落に思わず苦笑した。
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《絆》
「"絆"保険をお勧めします」外交員が囁く。「絆が重要視される今、一人でいるのは罪悪です。我々は僅かな掛金で人との絆を取り持ちます」「絆ってそういうものじゃないだろう」俺は外交員を追っ払う。だが新聞やTVからは「絆」の連呼。俺は外交員の残したチラシに手を伸ばした。
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《占師》
「貴方の手相は最悪です」。俺は様々な占師に断言された。俺は絶望し飛降り自殺を図る。だが命は助かり掌に大きな傷が出来た。でも、その後の俺は恐ろしく幸運続き。最後は世界を支配した。掌の傷が手相を変えたのかも知れない。そんな考えが頭を過ったが、俺は迷わず世界中の占師を処刑した。
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《理由》
メタバース全盛となり今日もそこで取引相手と会合だが、立場をかさに俺を散々いたぶりやがる。俺は奴のアバターそっくりのダミーを作り、オフラインの仮想空間で何度も奴をブチ殺す。そしてまたニコやかに商談する。今の世の中、暴力・殺人などの犯罪が減ったのは、こんな理由かも知れないな。
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《コネ》
就職難の時代。今やコネなしで就職する事は不可能となった。人々は金、肉体、恐喝、様々な手段でコネを手に入れる事に血道をあげる。そして当然ながら「コネで入った奴は使い物にならない」は死語となった。それを言ってしまったら、自分が無能だと認める事になるのだから。
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《秘宝》
我が一族には秘宝の石があり、それは一族に幸運を運ぶ。実際に有り得ない幸せが舞い込むのだ。一族郎党それを糧に苦難を乗り超えてきた。だが皆は知らない。一族の長が暗躍し、幸運がもたらされたと感じるような裏工作を行ってきた事を。只の石ころも、希望というベールをまとえば秘宝となる。
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《法》
「奴らです。間違いない」昨晩若者に襲撃された俺は警官に訴えた。警官が逮捕に向った瞬間、彼の無線が鳴り響く。「残念だが警察や司法は何もできないよ」「何ですって!?」「新しく出来た"因果法"を知ってるよな。アンタ、昔おなじ事を他人にしただろう。だから文句を言う権利はないんだよ」
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《薬》
「この惚れ薬、大丈夫なんだろうな」俺は悪魔に確認する。「勿論さ。どんな相手でも一発でアンタにベタ惚れだ。で、誰に飲ますんだい?」悪魔が言い終える前に俺は薬を一気に飲み干した。驚く悪魔を尻目に俺は言う。「俺は自分が嫌いで仕方なかったんだが、これで自分を好きになれるだろう」
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《ゴミ》
「この錠剤が封印解除の鍵となります。再発行できないのでご注意を」いま流行の記憶屋が言う。特定の記憶を封印し思い出せない様にする商売だ。失恋、社外秘、遺恨等、結構需要があるようだ。建物を出ると私はすぐに錠剤を捨てた。別れた夫との記憶なんて、汚いゴミくず同然なのだから。
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《来世》
何に転生したいかを神に問われ、俺は深い森の木を希望した。大樹となり千年生きた後、自然に朽ちる保証付きだ。チートでも良いと言われたが、断った。自分が考えたわけでもない知識でのし上がり、無双が故に人に優しく出来る人生。そんな偽善と欺瞞に満ちた生き方は、もう前世だけで沢山だ。




