《騙す》《呪》 ほか
《福音》僕は全てが都合良く見聞き出来るメガネと補聴器の被験者となった。嫌な奴の顔は柔和に見え、罵詈雑言も励ましに聞こえる。強いストレスの僕には福音だったが、機械は突然故障し僕は倒れた。看護師が言う「先生、あの患者さん、機械がどうのこうの言っていますが…」「気にするな。只の妄想だ」
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《毒》「てぇへんだ、てぇへんだ! 政府が、貧乏人の体内に毒を注入する法律を断行するらしいぜ!」「おい、落ち着けよ。一体、何の話だい?」「おめぇ、今度始まる”イン ポイズン”制度って知らねぇのかよ!?」「あぁ…、インボイスだろ、そりゃ。…まぁ、零細業者を殺すって意味では同じかな…」
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《命》鉛筆を削る。芯を折る。また削る。削れなくなったらポイと捨てる。これでお前の生まれてきた意味を失くしてやった。お前は何の役にも立たずこの世から消えるのだ。何か他者の運命を制御してる気になった。使い捨てられるだけの俺だって、お前よりマシだ。俺は又、1ダースの鉛筆を注文した。
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《意味》国民はある義務を負っている。貸与された十個のボタンの内、一つを起床時に押すのだ。理由は知らされていない。世間では憶測が飛び交う。幸運のボタン、不幸のボタンetc。だが人々は何かを恐れ、また期待し一日を過ごす。日々に張りを与える策略かも知れない。それは誰にもわからない。
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《秘密》引出しに「開けるな」と付箋が貼ってある。俺の字だが覚えがない。開けようか開けまいか…。考えあぐねた結果、我慢できずに開けてしまう。途端、如何にも残念な音楽と共に「まだ二日だぞ、根性なしめ!」と中の魔石が罵る。そうだ、好奇心を抑える試験中だっけ。一週間はもたないと不合格だ。
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《騙す》僕は限界だった。騙し合いの世の中、不信感で疲弊しきっていた。そんな時、悪魔が囁きかける。僕は迷った挙句「相手を完璧に騙す嘘がつける」を条件に契約した。それ以来、心は軽くなり、前向きに生きられる様になった。僕は毎朝、鏡に向かう。そして鏡に映る自分の心を完璧に騙して出社する。
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《笛吹》現代にハーメルンの笛吹が現れ、人々を連れ去った。調べると弱い人ばかりが対象だ。権力者はほくそ笑む。「あぁいった邪魔な奴らがいなくなるのは結構な事」政府は対策を取らなかった。だが深刻な事実に気づく事となる。弱い人間がいるからこそ、自分たちが強く威張れていたという事に。
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《呪》「呪ってやる」あの女は呪文を唱えて絶命した。フン!あの程度の魔女の呪いなんて痛くも痒くもないわ。私はライバルを倒した足で愛する男の元へ赴いた。だが異変が起こる。私は早々に彼の前から姿を消した。あの女、愛する人の前に出ると足の裏が痒くてたまらなくなる呪いをかけやがった。
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《帰還》俺達の宇宙船は推進機関が故障し亜光速で飛び続け、外の世界では1万年が過ぎていた。見慣れた太陽系は既に崩壊し、地球もまた存在しない。だがケジメの為に故郷へ行く事となる。そこで一同、笑って泣いた。何もない宇宙空間に巨大な板。そこにはこう書いてある。「引っ越しました。行先は…」
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《分相応》何に転生するか神様に問われ、僕は即「魔王」と言った。絶大な魔力を振るい世界を支配するのだ。だがなってみると魔族の統率、人事等、事務仕事が多くストレスで胃をやられた。魔王なんて嫌だ!叫んだ途端に目が覚める。予知夢を見せられていたのだ。僕は大人しく地方の小金持ちに転生した。




