7.経緯
アルバートが退室し、もう寝たいアリサを解放してくれない兄達。完徹を覚悟したアリサは…
アルバートが離脱しまだ終わる気の無い兄様は相変わらず結構なピッチでお酒を飲んでいる。
2人共蟒蛇でかなりのワインを飲んだのにほろ酔い程度だ。
溜息を吐きエリにこれ以上お酒を出さない様に言い、酔い覚ましのハーブティーを頼んだ。
そして急に二人が立ち上がり私の両隣に座り肩に頭を預けた。その様子は子が母に甘えるように。
もうすぐ子供が成人する年になっても親は恋しいものだ。特に兄様達の母様への愛情は度が超えている。聞いた話だが兄様達は親と婚姻できなのを知らずに本気で母様にプロポーズし、実父に宣戦布告をしたそうだ。
勿論、母様至上主義の父様は我が子にも容赦なくまだ幼児の息子と本気の喧嘩をし、父様達は母様の逆鱗に触れ暫く口をきいてもらえなかったとお爺様から聞いた事がある。
『そんな二人がよく婚姻で来たわね』
改めて義姉さんの心の広さを痛感する。甘える兄様の頭を撫でながら、小さく柔らかい母様の手を思い出ていた。母様は異世界人でこの世界の女性の比べ小柄だ。全てが小さく私が10歳になるとほとんで変わらなかった。そんな小さい母様は可愛く、そして寛大で誰に対しても優しい。
そして見上げるほど大きな父様を小さな腕で抱きしめ愛してきた。そんな母様は私の理想だ。
暫く逞しく雄々しい兄様の頭を撫でていた。するとショーン兄様が
「アリサ」
「ん?やっと休む気になりましたか?」
「ラインハルトの恋愛話はもういい。それより”あの娘命”の父様達をどうやって説得したんだ?」
「恋バナはもういいの?」
「あぁ…今までの話は本気では無く”恋に恋する少女の話”で、微笑ましく聞いていれたが夫との話は本気話で、俺は聞いたら暴れる自信がある。母様が亡くなり辛いのにこれ以上は耐えれん」
そう言いショーン兄様は私に抱きついてきた。身勝手な兄様達に苛つきながら
「いや散々私の恋愛遍歴を聞いておいて何それ⁉︎ それならもう終わりましょうよ」
そう言うと黙っていたフレッド兄様が
「スミレがうちに嫁ぐ時に父親の説得の方法を知っておきたい」
「「はぁ?」」
フレッド兄様はそう言いショーン兄様の腕から私を奪い抱きしめた。するとショーン兄様がスミレはオリタ家に嫁ぐのだと言いフレッド兄様と睨み合いになる。
深夜2時に私の頭上で喧嘩する兄様達に溜息を吐きながら、遠い目をしていた。こんな時母様はどうしていたかしら… 少し考え正解かは分からないけど
「スミレは今のところ”父様みたいな人がいい”と言っているわ。夫はおっとりしているから、兄様達みたいに喧嘩っ早いお舅さんの所にスミレは行きたがらないでしょうね」
「「…」」
やっと喧嘩をやめた2人の頬に口付け宥める。
私も母様に似たせいで父様や兄様に激愛され苦労してきた。娘のスミレも母様似で生まれた時から父様と兄様それに甥達に溺愛され、将来苦労するのが目に見えている。
母様か私を守ってくれた様に、今度は私が娘を守る。そう思っていたら兄様達が話の続きをせがみ眠る気はないようだ。イラっとしたがこの話で終わるなら良しとし、今度は結婚のまでの経緯を話す事になった。
そして抱き付く2人から離れて別のソファーに座り直し、あの過酷な日々を思い出しながら話し出した。
そう母様と私を激愛する3人の父様から結婚許可をもらうのは至難の業で長い時間と神経をつかった。
ラインハルトからプロポーズを受け、直ぐに母様に報告し母様と作戦会議を始めた。未来の夫はおっとりした性格で私と母様が臨戦体制なのが理解できない様で、初めは作戦会議には消極的だった。
どうやらアカデミーに入るまで王都から離れ土地で育った彼は、父様&兄様の異常な溺愛を知らなかった様だ。
『アカデミーに入り仲間から聞いてはいたが、これほどまでとは思わなかったよ』
と呑気に笑っていた。完璧で隙のない父様と兄様に絡まれて育った私には、彼のゆるゆるな感じが心地よかったのかもしれない。彼との時間は穏やかで適温のハーブ湯に浸かっているかの様だ。
初めの方は彼のご両親も王女の相手なんてとんでもないと反対ムードだったが、秘密裏に私と母様とお会いしているうちに母様の人柄と意外に?普通な私を気に入って下さり、結構早い段階から了承を得れていた。
でも彼のお父様には
『てっきり国王のお認めになられた他国の王子に嫁がれるのだと思っておりました。まさか何のとらえもない愚息を選ばれるなど思ってもおらず驚くばかりでございます』
と1年くらい私達の話を本気にしていなかったのだ。それに比べ義母様は初めから応援して下さり、とても良くしていただいた。もちろん嫁いだ今も仲良くしていただいている。
話は戻り交際期間中は母様の側近達の偽装工作で父様と兄様にバレる事なくラインハルトとの仲を深める事が出来た。父様や兄様は他国の王子と、何かにつけ絡んでくるバーミリオン侯爵家の嫡男ばかり気にしていて、辺境伯のラインハルトなんて眼中に無かったのだ。婚姻の話が出た時は
ローランド父様は
「私のアリサがそんな奴を選ぶとは思いもしなかった!予想外だ!」と叫び
ミハイル父様は
「何故アリサは父様に言ってくれなかったのだ!」と落ち込み
アレク父様は
「そんな軟弱な男では俺達は納得できない」と憤った。
父様達の激愛ぶりにラインハルトは驚く事なく、不平不満を言っている父様達に和やかに耳を傾けていた。後日あれだけディスられ私との婚姻が嫌になったのかもしれないと思い聞いてみたら
「殿下はそれだけ父君に愛されているんだよ。父親からしたら俺が憎いのは当たり前だ。だから俺は時間がかかっても殿下を任せると思える男になるだけさ」
そう言い抱き寄せてくれる。彼は本当に心の大きな男性だ。
父様が反対する中、母様は早い段階でお祖父様とお祖母様にラインハルトを会わせてくれた。お祖父様もお祖母様も優しく懐の深いラインハルトを気に入ってくれ味方になってくれたのが何より心強かった。
でも正式に婚約するものかなり大変で、彼との逢瀬に父様と兄様達の横槍が入り会えない事が増えた。そんな時に助けてくれたのがアルバートだった。しかしアルバートは妹想いなわけでは無く、自分が婚約する時に味方して欲しくて忖度した訳だ。
『確かにアルの想い女のティナ殿下の父君のギラン陛下も中々の溺愛な上に、遠く離れたここレイシャルに嫁ぐとなると難色を示すだろうなぁ』
アルバートは次期国王なだけあり計算高く冷静に判断できる。だからギラン陛下に気に入られている私に借りをつくっておきたいのだ。
こうして妹想いのアルのおかげで逢瀬を重ねる事ができた。
『だからアルの時もちゃんと一肌脱ぎましたよ!』
「くそ!やっぱりアルを味方につけていたのか」
「(アルバートは)俺達には反対している風に見せておいて裏切りっていたのか⁉︎」
兄様の目が座り矛先がアルに向いた。後日アルが兄達に絡まれたのは言うまでもない。
「それより婚約から婚姻式までが異常に早かったは何故だ」
「婚約解消は簡単だけど女神レイラの前で誓った婚姻は簡単に解消出来ないじゃない⁈ だからね…」
その理由を話すと…
「「やはり母様かぁ!」」
そう叫び苦々しい顔をする兄様を見つめながら、少し気分が上がる私だった。
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