6.出会い
アリサの恋バナは続き夫ラインハルトとの出会いを語る事に…
「ちょっとなんで酒盛りしてるのですか!」
「ここまでの話は恋に恋する子供の話だ。しかしここからアリサの本気の恋バナを聞くんだ。酔わないと聞いてられない」
「なら聞かなきゃいいじゃなぃ!」
兄様達は早いピチで酒を飲み笑っているが目が怖い。こんな歳になってもまだ私の夫に嫉妬全開の兄達。
溜息を吐きちゃっちゃっと話し終え早く眠りたい!
すると長兄のショーン兄様が出会いを聞いてくる。
「きっかけはアルよ」
「はぁ⁈アルバート!お前か!」
「えっ?僕?」
そう。きっかけは双子の兄のアルバートだ。夫のラインハルトは辺境伯家嫡男で、アルバートのクラスメイトだった。
レイシャルのアカデミーは身分関係なく学べる。これは母様が全ての国民に学びを望み、元々あった貴族向けのアカデミーと平民が通う学校を一つにしたのだ。
クラスも身分関係なく決められ、王族の私達も例外なく平民や貴族と同じクラスで同じ内容を学ぶ。2年生で卒業後は平民は家業を継ぎ、貴族は専門院に進学する。
私が入学を控えいたある日。母様が凄い勢いで私の部屋に来て手を取りあっという間に城を出て、シュナイダー公爵領に向かった。このパターンは家出だ。実行したのは一度しか無いが、未遂は何度もあり船に乗る前に父様達が止めに来ている。殆どの原因は私の事で、それも父様達の過保護が元になっている。
『確かこの時は…』
私がアカデミーに入学する事が決まると、他国から歳の近いの王子が挙って留学を申し込み、アカデミーの定員がオーバーし校舎と教員を増やすか審議されていた。しかし恐らく私が卒業すると生徒は減るのが目に見えているので変更しない事に。そこでどこの国の留学を受け入れるか審議され、そこでいつも通り父様達が暴走し母様の逆鱗に触れた様だ。
母様と私を乗せた馬車がシュナイダー領に入り、恒例のワンダの出迎えを受けていたら、馬に乗ったミハイル父様とフレッド兄様が慌てて止めに来たのだ。
慌てて来た様で護衛の騎士を置き去りにしていて、騎士達は遅れて到着し疲労困憊だ。
この日はシュナイダー領に泊まり、アビーお祖母様と沢山おしゃべりし、ミハイル父様はレイモンドお祖父様から説教を受け、翌日迎えに来たローランド父様とアレックス父様もお祖父様に説教を受ける事になった。
そして古くから繋がりの深い国の王子を受け入れる事になり一応⁈解決して無事にアカデミー入学となった。
母様は先手を打ち学園長に父様達の意見聞き入れない様に指示。怯える学園長に王妃の指示であるから心配ないと説得。公平なクラス分けがされ、父様が懸念していたアルフガンの第2王子のケビン殿下と同じクラスになった。確かに気候の暑い国だけあり、陽気で距離感のない殿下に初めは困ったけど、悪いお方ではなくそれなりに学友としてお付き合いした。同じクラスになってからも父様達は警戒し続けたけどね。
そして入学し半年経った頃に王都南の森でオリエンテーリングがあり、同じクラスのアルバートとラインハルトは同じグループになった。
アルバートとラインハルトは特に仲が良かった訳ではなくただのクラスメイト。
私は仲のいい子爵家のミッシェル嬢と他3名とまわっていた。
ルートは5つ有りアルバートのグループと私のグループが同じルートだった。
楽しくまわっていたがトラブルが発生。私のグループの地図担当のミッシェルがコンパスを紛失し、ルートから外れ迷ってしまった。
必死にルートに戻ろうするがどんどん道を外れ森の奥へ。
同じグループの侯爵家令息のモートンがミッシェル叱責しミッシェルは泣き出してしまう。一応王族の私には影がついていて影が用意してあった発煙筒を使い本部に位置を知らせ救援を求めた。そしてこれ以上迷わないようにこの場に留まることになった。
同じグループのレオンがシートを出してくれ、ミッシェルを座らせ水筒から水を注ぎ飲ませる。顔色が悪く震えているミッシェルに容赦ないモートンに腹が立ち我慢の限界がきた私は
「それ以外の発言はおやめ下さい。今そんな事を言っても何も解決しません」
「ですが王女であらせられるアリサ殿下を危険な目に合わせて、叱責されるのは当然てあり…」
「私は学園で学んでいる間は他の学生と同じで、身分は関係ないと初めにお伝えしてあります。いわば皆さんと同じですわ」
「…」
私とモートンが言い合いをしていたら、影が剣に手をかけ森の奥を見ている。そして抜刀したら
「あ…やっぱりここだ!」
「「「「「「へ?」」」」」」
森の暗がかりから現れたのがラインハルトだった。腰に何故かにロープ結び付けたラインハルトが笑顔でやって来た。
「あっ迷ったグループはモートン殿のところでしたか⁈あれアリサ殿下?」
そう言い私を見て人懐っこい微笑みを浮かべ、私の前に来てポケットから何か出し私に渡す。
「あっコンパス!」
「はい。俺緊急用に必ずポケットに入れ持ち歩いているんです。これで帰れますね?」
「あっはい。貴方は確かアルバートと同じグループの…」
そう言いながら彼からコンパスを受け取ると、彼は優雅に挨拶をする。
「はい。シュバルツ辺境伯家ラインハルトと申します。お怪我はございませんか?」
「ありがとうございます。皆無事ですわ。ラインハルト様そのロープはアルですね」
そう。アルなら思いつくだろう。母様が森の散策をした時に迷った時の対処法を教えてくれた。元来た道を忘れない様に来た道に目印を付けるか、ロープなどで来た道を確保する様に教えてもらっていた。
「流石アリサ殿下でございます。私共のグループはこの近くに居て、救援の煙が見えたのです。私共のグループが恐らく一番近いとアルバート殿下が判断され、救援に向かう事をお決めになられました。そして森を歩き慣れている私がロープを使い代表で皆さんを迎えに来た訳です。このロープは我がグループの皆が持っているので辿ればアルバート殿下の元に戻れます」
流石私の半分のアル。母様に教えてもらった事をちゃんと覚えていたんだ。感心していたら馬の蹄の音が近付いてくるのが聞こえて来た。どうやら助けが来たようだ。
ラインハルトからもらったコンパスもあるから、オリエンテーリングの続行は可能だがミッシェル嬢が憔悴してるうえ、グループの雰囲気が悪い。
『このまま続けたらまた何か起こりそうだわ』
「アリサ殿下。お戻りを」
「私はいいからミッシェル嬢を。調子が良くないわ。私はアルのグループに合流するわ」
「しかし!少しでもトラブルが有れば連れ帰るようにと陛下から!」
ここでまた父様達の過保護だ。私はまだ元気だし続けたい。迎えに来た馬は4頭で4人は馬で帰れる。あれだけ騒ぎ立てたモートンも意気消沈し続行は無理だろう。
「皆さんどうしますか?私はラインハルト殿とアルバートのグループに合流してゴールしたいのです。続けるか戻るかは皆さまご自分でご判断下さい。勿論私の事を理由に無理に続ける事はおやめ下さい」
そう言い各自の判断に任せると、今になりミッシェルに当たり散らしバツが悪いモートンと、同じ様に責めていたバルトは戻りを決めた。残った商家子息のレオンと私はラインハルトと一緒にアルのグループに合流する事にした。ラインハルトはロープを強く引っ張ると、アルのグループからも合図がある。
「戻りを伝えたのでこのロープを辿り戻りましょう」
「ラインハルト様。よろしくお願いします」
「はい。お任せを」
こうしてレオンと私はラインハルトについて行き、アルのグループと合流しオリエンテーリング続行。無事に全ポイントをまわりゴールした。
「…どこに恋に落ちる要素があったんだ?」
「この時はいい人位にしかし思って無かったし、後でこの時の事をラインハルトにも聞いたけど『あっ王女だ』くらいの認識だったそうよ」
そう。このハプニングが2人の仲を深めた訳ではない。この時【吊橋効果】は発動しなかった。それにまだ付き合わせに参加していないが、ラインハルトは遠縁のゴラスの伯爵家令嬢と縁組が決まっていて、参加年齢になれば直ぐに婚約予定だったのだ。
「ラインハルト目が悪いのか?アリサに会って何も感じないないなんて、男としてダメだろ」
「兄様達の方が目の診察を受けた方がいいわよ」
兄様達は父様に似て超美形ハイスペックで国内外の女性の憧れの的だ。だが欠点である重度のシスコンがなければ完璧なのに。しかしこのシスコンを知っても兄様を愛し支えてくれる義姉はすごい。尊敬し感謝しかない。しかし義姉は夫だけで無く息子(私からみて甥)も難ありで苦労している。何故なら私の娘のスミレに執着しスミレを娶るのに必死なのだ。
『スミレも私みたいな苦労すると思うと可哀想だわ。母様が教えてくれた知恵や知識をスミレに伝えないと』
親になりはじめて母様の苦労を知り、改めて小さく可愛くて聡明な母様を尊敬していた。母様を思い出していたら酔っ払いのフレッド兄様が
「俺は辺境伯の元へ嫁に行き、頻繁に会えないのが不満だ。もっといい男はいなかったのか?」
「フレッド。他国の王子に嫁が無かっただけでもよかったじゃないか。バーデランなんかに嫁に行ったら片道10日もかかるんだぞ。それにアフルガンなんかに行ったら帰してくれないぞ」
父様と兄様はどんな素晴らしい男性に嫁いでも納得しないのは分かっているから気にもしていない。私はラインハルトと子供と平穏に暮らせて十分過ぎるほど幸せだ。
そんな事を眠くぼんやりした頭で考えていたら
「そういえば…ラインハルトとは仲良い方では無かったが、一度だけアリサの好きな果物を聞かれた事があったな…」
「えっと…その時はラインハルトからお心をもらっていて、内緒でお付き合いを始めた頃だわ。領地に帰省するラインハルトがお土産に私の好きな果物を買って来てくれたの。辺境伯領地は希少な果実が沢山採れるからね」
「「はぁ?」」
ショーン兄様とフレッド兄様が一斉に立ち上がり怒りを露わにする。どうやら黙っていた事に怒っているようだ。兄様や父様にはアカデミー卒業後に建国祭の夜会で再会してから、意識し合うようになったと言ってあった。でも実はアカデミー1年生の終わりにラインハルトから告白され、心を受け取り付き合っていたのだ。
「だって兄様達に言えば邪魔されるじゃない」
「当たり前だ!お前に心酔している男は全て排除し、アリサに男が接触しないようにしていたのに!何故だ!」
だから内緒にしていたのだ。内緒にするのは母様からのアドバイス。バレれば離されるのは目に見えている。
「…」
憤るショーン兄様とフレッド兄様の横で静かにワインを飲むアルバートに気付いたショーン兄様がアルバートの隣に移動して肩を組み
「アル。お前に何か知っているな!」
背中が凍りそうな冷たい声でアルバートを問いただすと
「確証はなかったが2人が想い合っているのは薄々気付いていて、アリサは知らなかっただろうけど、父様達と兄様達にバレない様にこっそり協力していたんだ」
「うそ!本当に?」
グラスを置き真っ直ぐ私を見るアルバート。
そして
「アリサはティナがレイシャルに留学するのを手助けしてくれただろう?王女を溺愛するギラン陛下が中々許可してくれず、アンリ王妃も困っていた所に、アリサが陛下に懇願の手紙を出してくれたとティナから聞いたんだよ」
「アリサそんな事してたのか?」
そう。バーデランに訪問した時にティナ皇女に一目惚れしたアルバートの為に、母様と相談し手紙を書いた。母様も親友のアンリ王妃の悩みの相談に乗っていて、何か助けになる事をしたかったのだ。
ギラン陛下は自分の子の様に私を可愛がってくれていたので、お願いすればお聞きいただける確信しての事。その通り私の手紙がひと押しとなりティナ皇女のレイシャル留学が決まり、ティナ皇女は2年生からアカデミーに編入されアルバートと同じクラスになった。
そこから留学期間の1年間アルバートはティナ皇女に猛アプローチし続けた。
留学が終え祖国に戻られたティナ皇女だったが、遠距離を乗り越えて2人は互い愛を貫き結ばれたのだ。
「そっか…バレてないお思ってたけど、アルは知っていて父様達と兄様達に隠してくれていたんだ」
「双子だからね。アリサの気持ちは僕が一番知っているんだ」
アルの告白を聞き更に飲むピッチが上がるショーン兄様とフレッド兄様。そろそろ寝たいんですけど…
すると私の横に移動し抱きしめながらフレッド兄様が
「経緯はいい。ラインハルトの何処に惚れたんだ。彼奴は剣の腕がたつ訳でもなく、かと言っと秀才でもない。貴族男性としては全てにおいて並だ。惚れる要素が分からん」
「人の夫をそこまで言う!素敵だから好きになったんじゃない!」
「具代的に言ってくれ。そして納得させてくれ」
まだ続く恋バナに少しウンザリして来たら、アルバートが欠伸をし眠たそうだ。どうやらアルバートはもう私の恋バナに興味が無くなったようだ。いいタイミングで終わろうと告げるとアルバートも賛成してくれる。
やっと終わると思ったら
「アルバートはもう下がっていいぞ」
「はい。アリサも兄様もお早くお休み下さいね」
そう言い残しあっさり部屋から出て行った。私もアルバートに続けと立ち上がると、ショーン兄様に手を取られ再度座らされる。
そして
「きっかけはもういい。どうやってあの父様達を納得させたのだ?」
「もう遅いからまた今度でいいでしょ⁉︎」
「母様を想いもう少し付き合え」
「いや!母様の話を全然してないじゃない」
ショーン兄様と言い合いをしていたら、フレッド兄様がエリに小腹が空いたと軽食を用意させている。まだまだ私に絡む気の兄様達に遠い目をしてしまう。
もー誰か助けに来てよ!
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久しぶりの更新です。あと数話で完結予定ですので、最後までお付き合い下さいませ。
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