4.吊橋効果
従兄弟ディーンとの馴れ初めを思い出し…
「あの…ディーン兄様…私覚えてないんだけど、私いつ求婚しました?」
「酷いなあ〜あの日から俺の心はアリサでいっぱいなのに」
ディーン兄様は跪き私の手を取り口付けた。直ぐにショーン兄様がディーン兄様の手を払いハンカチで私の手を拭く。
「あっ!思い出したかも」
「「いつだ!」」
アレク父様とショーン兄様に詰め寄られ、誤魔化せない雰囲気に仕方なく話す事になった。
「とりあえずお茶を飲んで落ち着きなさい」
お祖父様の一言で皆着席し、まずお茶をいただき話し始める。
「あれは確か…ロシアグナ皇国の皇太子がお見えになる事になった時だから3年前よ。いつもの様にコールマン領に避難していた時に、確かグリフから落ちてディーン兄様に伴侶候補にして欲しいと言われ…」
「「「はぁ?グリフから落ちた!」」」
「アリサ!あれは内緒だっただろ!」
「あっそうだった」
アレク父様、ショーン兄様、エリック叔父様は一斉にディーン兄様に詰め寄り、アレク父様はディーン兄様の胸ぐらを掴んだ!
慌ててアレク父様を腕に抱きつき止め、そしてアレク父様は何故か嬉しそうに私を見ていたのを覚えている。
カオスな状況をお祖父様が収めてくれ、やっと話が出来るようになり3人による事情聴取が始まった。
あの時は確か領地で問題が起きアレク父様とお祖父様が急遽出かけられ、ショーン兄様は体調不良で部屋で休んでいて、お祖母様が看病をしていた。暇な私はディーン兄様とエリック叔父様に教えていただき、初めてグリフに乗せてもらったのだ。
「アリサ。グリフの背に抱きつく様に掴まるんだ。但しあまり強く抱きつくなよ嫌がる」
「はぁーい」
「ディーン。デルは従順だから大丈夫だと思うが、横に並びアリサとデルをサポートしなさい」
「はい」
こうしてグリフに初めて乗せてもらい舞い上がっていた。エリック叔父様から屋敷から見える丘を一回りし帰って来る様に言われ、ディーン兄様と出発。順調に空の散歩を楽しみ、丘の上の少し広い場所で一旦休憩して帰る予定にしていた。
眼下に空地が見えた時に湖で大魚が跳ねたんだった。気が小さいデルはそれに驚き急浮上し、私は驚き手が離れてしまい5m程の高さから落下。ディーン兄様が乗ったレンがすぐに来てくれたけど間に合わず…
「で…どうしたのだ」
アレク父様の地を這う様な低音にディーン兄様とエリック叔父様は硬直。
母様!おそらく父様の眉間の皺は新記録です!
「ディーン兄様か地面にぶつかる直前にレンから飛び下り私を抱え込んでくれました」
そう私はディーン兄様に抱きかかえられ落下し地面に激突した。…が私はディーン兄様に抱きかかえられ無傷だった。片や兄様は地面に体を叩きつけられ背や腕を打撲しアザだらけに。
「ディーン兄様!」
「っつ!…アリサだ…大丈夫…か?」
「ごめんなさい!私を庇って…兄様が怪我を!」
兄様は起き上がり私を抱きしめ、優しく背を撫でて微笑んでくれた。ご自分の傷が痛むはずなのに…
「アリサ…怖い思いをさせた。デルは繊細だから安全にアリサを運んでくれると思って選んだが、臆病で神経質な所もあったんだ。そこを失念していた俺のミスだ。済まなかった」
「兄様に傷が残ってしまったら…ぅぅ…」
安心したのと侯爵家の後継である兄様に怪我を負わせた罪悪感から涙が止めど無く溢れ号泣してしまう。
絶対痛い筈なのに兄様は微笑み慰めてくれる。そして
「かわいいアリサが傷付かなくてよかった」
少し落ち着いて来て兄様の腕を見たら傷が…
ポケットからハンカチを出して止血し、また涙が溢れてくる。
「私…兄様に傷を負わせて…どうすれば…」
「男が女性を護るのは当然の事だし、この傷はアリサを護った勲章だ。だから気にするな」
「でも…やっぱり私のせいだわ。兄様の為にできる事が有ったら何でも言って!」
驚いた顔をするディーン兄様は少し考えて何故か頬を染めて
「ならアリサが大きくなり、伴侶を選ぶ時に俺を候補者の1人に入れてくれ」
「分かったわ!大きくなったらディーン兄様のお嫁さんになるわ!」
「えっ!候補者でいいんだよ」
「今は好きな人いないからいいの!」
あの後、デルが耳と尾を下げ申し訳なさそうに戻って来てデルとレンが落ち着いたのを確認し、叔父様が騒ぎ出す前に帰る事にした。
ディーン兄様は痛みを隠し何も無かったかの様に振る舞う。落下した事がバレれば大ごとになり、私は二度とグリフに乗せてもらえなくなるし、下手すると父様達はここコールマン領に連れて来てくれなくなりそうだ。
おそらくそれが分かっているから、ディーン兄様は傷と落下事故を隠してくれたのだ。
それから数日、ディーン兄様が気になり後を追う様になった私。兄様を見るとドキドキしたのを覚えている。
「そんな約束は認めんし、脅迫ではないか!」
「強要はしていませんよ!俺は候補者でいいと言ったのに、アリサが自ら嫁にと」
「今の話ではディーンは無理強いしていないぞ兄貴!だからあの約束は有効だ!」
「俺はいつでもアリサの心を受けるよ」
「ディーンはいい奴だが、アリサの相手となると話は別だ!」
またまたカオス状況に…困ってお祖父様を見る。こういう時は冷静なお祖父様に頼るのが一番だ。
「落ち着きなさい。アレックス、エリックよ。其方達は親になり子供達のお手本になるべきお前達が騒ぎ立てて情けない。しっかりせんか!」
「「…申し訳ございません」」
「(婚姻は)アリサもディーンもまだ先の話だ。今騒ぎ立てる様な事ではない。本当に縁が有れば誰に反対されようと結ばれるものだ。アレックスお前が一番分かっておるだろう」
「…」
この話はお祖父様の一言で治りこの求婚の約束は保留となり、知らぬ間に忘れ去られてディーン兄様も私もそれぞれ愛する人と会い婚姻した。
ふと母様の言葉を思い出して
「ディーン兄様とは”吊橋効果”で本当の恋ではないと母様が教えてくれたわ」
「「「「吊橋効果?」」」」
「うん。母様の異世界の心理現象らしいの」
「アリサちゃんばぁばに分かるように教えてちょうだい」
「うん。あのね」
“吊橋効果”というのは吊り橋の上のような不安や恐怖を強く感じる場所で出会った人に対し、恋愛感情を抱きやすくなる現象”なんだと母様が教えてくれた。
「吊橋など聞いた事がないぞ」
「えっとね吊橋も異界の技術で、谷や川など人が通れない所をロープと板を組み作る橋の事で、ロープで繋ぐから固定されてなくてグラグラするんだって。落ちそうドキドキするでしょう?そのドキドキは恋をした時のそれに似ていて勘違いしちゃうんだって」
「危険を共にすると愛したと勘違いする訳か⁉︎」
あの事故後に数日して王都に戻りコールマン領から帰ってもディーン兄様が心配で、心落ち着かず母様に相談したのだ。
母様は微笑みながら教えて下さった。そしてこうも言ってくれた。
「恋なんて勘違いから始まるものよ。今のアリサのドキドキが続いたら、そのドキドキは本物の恋だわ。何もせず心のままに過ごしていればいずれ分かるわ」
「本当?」
「そういう気持ちは大切にしなさい。はぁ〜母さんは嬉しいわ!娘と恋話が出来るなんて!」
それから暫くドキドキは続いた記憶があるが、いつまでかは覚えていない。恋なんてそんなもんだ。
この話の後お祖父様とエリック叔父様は”吊橋”に興味を持ち、数日後に母様に詳しく聞きに王城へ行き、アレク父様とショーン兄様はディーン兄様への思いは勘違いだとしつこい位に言ってきて面倒くさかった覚えがある。
「昔の事とはいえディーンを一発殴らないと気が治まらん」
「フレッド兄様。母上の喪が明けたら行きましょう。私もお供いたします」
「やめてよ!もう時効だわ」
「いや、母様の世界では罪に期限が有ったかもしれんが、レイシャルには罪に期限はない。ディーンは万死に値するぞ」
私の恋話をしてたんじゃないの?
『ディーン兄様ごめんなさい…矛先が兄様に行った事で、私は恥ずかしい恋話から解放されそうです』
ディーン兄様にはお詫びに何か贈っておこうと思いながら、心の中で手を合わせた。
一息吐きお茶を飲みながら昔は恋して悩むと母様が相談にのってくれ、夜遅くまでお茶を飲みながら話をした事を思い出していた。
何故か母様が乙女の様に目をキラキラさせて私の話を聞いていたのが印象的で覚えている。
あれだけ男前な父様3人に溺愛されても恋話は大好物だった母様は、可愛らしい人だったと改めて思っていたら…
「…でアリサ3番目の相手は誰なんだ?解放されたと思ったか?僕らがしつこいのは知っているだろう⁈」
「あ…やっぱりか…」
「ディーンは後日対応するとして…さぁアリサ次!」
気がつくとエリがお茶を入れ直していた。やはり今晩は長くなりそうだ…
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二番目の回想は終わり次は三番目に…一体アリサは真実の愛に出会うまで何人に恋をしたのでしょう…