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空(うつほ)なる真実 ルーフェイア・シリーズ11  作者: こっこ
Chapter:9 閑話休題、孤島にて
96/114

Episode:96

「まったく。上級隊がそれでは、命が幾つあっても足りませんよ。それで、二点目なのですが」

 突っ込んだあと一旦言葉を切って、タシュアがまっすぐ私を見た。

 真剣な紅い瞳に、なぜかどきりとする。

 もしかしたら、そんなことを考える。


「シルファ、私が死んだら、あなたはどうします?」

「――え?」

 予想もしなかった言葉に、すべてが止まった気がした。

 言われていること自体は分かる。だが、理解できない。

 タシュアが――死ぬ?


「そんなこと……」

 あるわけがない。私が死ぬならともかく、タシュアが死ぬなんてあり得ない。

「……冗談……だろう?」

 多分私は、笑い飛ばそうとしたのだと思う。けれど表情は、意志に反して固まったままだった。


「冗談で済めばよいのですけどね」

 ほんの少し、タシュアが哀しげな顔をする。

「無いとは言えませんよ。なにしろ、傭兵として任務に出る身ですから。予想外のことは、いつでも起こり得ます」

 畳み掛けるように続く言葉。


「そのとき、あなたは立ち直れますか?」

「……」

 答えられるわけがなかった。


 ――タシュアが、居なくなる。

 そうしたら私は、また独りになってしまう。やっと見つけた居場所が、なくなってしまう。


「いや、だ……」

 呼び起こされる記憶に、手足が冷たくなってくる。

 血の気が引いていくのが、自分でも分かる。


「独りは、いやだ……」

 ありありと思い出す。楽しそうな話し声を、壁越しに聞いていた日々を。


 暗い部屋の中、ひざを抱えて、聞き耳だけを立てていた。

 本当は中に入れてもらって、一緒に話をしたかった。手の触れる場所に、誰かに居て欲しかった。

 けれどそれを口にするのは、家から追い出されることを意味していて……。


「置いて……行かないでくれ……」

 怖くて涙がこぼれる。


 優しくしてくれた人と、何度も何度も引き離された。泣いて追いすがると、ひどく怒られた。

 だから目立たないように、追い出されないように、家の隅で息をひそめて、ただ黙って毎日を過ごしていた。


 暗く、冷たく、寂しい記憶。

 辛くて悲しくて、このまま消えてしまいたいと、何度思っただろうか?


「シルファ、落ち着いてください」

 タシュアの声。

「別に、今日明日死ぬわけではありませんよ。生き汚いのが取り得でしてね。ただ――」

 何か言っているが、頭に入ってこない。

 いやだ……独りはいやだ……。





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