表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空(うつほ)なる真実 ルーフェイア・シリーズ11  作者: こっこ
Chapter:9 閑話休題、孤島にて
95/114

Episode:95

「そんなことはないだろう……? タシュアなら、それこそ大学にだって……」

 教官からの評価が低いという問題はあるが、タシュアは実技と同じくらい学科も出来る。しかも在籍しているのは、英才教育で知られるシエラの本校、それもAクラスだ。どんな難関校でも難なく入れるはずだった。


 だいいち私には、軍とは関係ない進路があると言っている。なのに自分はまた戦場へ戻るなど、矛盾だらけだ。

 言葉を続けるタシュアから、表情が消える。


「私は、そういう存在ですからね。他に行くべきところなど、ありません」

 凍りついたような、表情のない横顔。

 深い溝が、そこにはあった。


 たぶん、心のどこかで期待していたのだと思う。私がタシュアと居られればいいように、彼にも同じであってほしいと。

 だがそんな思いが、どれほど甘いものだったのかを思い知る。


「すでにこの身は血塗れです。直間接を問わなければ、手にかけた命は、ゆうに三桁を越えるでしょう」

 私さえも見たことがない、そういう修羅場を知っている者の言葉。

 何か言わなくてはと思うが、声にならない。


「怨み憎しみ……どこでどれだけ買っていることか、最早想像することすらできません」

「けど、それは、タシュアのせいじゃ……」

 やっとそれだけ言う。

 彼の言っていることは事実だが、好きでやったことではない。そういう立場に無理やり置かれて、生きるためにはそうするしかなかったのだ。


「殺された側にしてみれば、そんなことは関係ありませんよ」

 私の必死の言葉に、タシュアが冷静に返す。


「ただひたすらに戦い続けて、惨たらしく死ぬのが、私にはお似合いでしょうね」

 あまりにも冷たい言葉と表情に、背筋が凍る思いだった。

 たぶん、怒っているのだろう。感情を向けている相手は……彼自身か。


「まぁ、私のことはよいでしょう。何せ気まぐれな性格です。こんなことを言いながらも、どこぞで生き延びているかもしれませんしね」

 まだ呆然としている私に、タシュアが少しだけ声のトーンを変えて言う。

 あれは本音だろうが、言いすぎたと思っているのかもしれない。


「ただ、シルファ、あなたの選択肢が拡がったということは、間違いありません。今までよりももっと自由に、好きな進路を選択できますよ。

 無限の可能性、などとは言いませんけどね」

 いつものタシュアに、ほっとする自分が居た。


「慌てる必要も、まだないでしょう。卒業まで二年半ありますし、理由さえ正当ならルーフェイアの母親は、もう数年はおそらく待ちます。いろいろな情報を集めながら、ゆっくり考えるのがいいかと」

「……そうだな」


 確かにタシュアの言うとおり、今から考えておいてもいいことだ。

 とはいえ学院で斡旋してくれるところ以外は、何があるのかさえよく分からない。まずはそこからだろう。

 帰ったら調べてみよう、そんなことを思いながら、ぬるくなったカップの中身を飲む。


「とりあえず、少々脱線してしまいましたが、以上が一点目です。それで、二点目ですが……」

「まだあったのか?」

 ここまででもずいぶん深刻な話なのに、終わりではなかったらしい。


「最初に、二点あると言いましたが」

「そうだったか……?」

 言われてみれば、そんな気はする。だが他の事――なにしろ私の部屋へ押しかけてきたのだ――を考えたりしていて、よく覚えていなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ