Episode:93
「どうすると言われても……夏休みはもう、終わりだろう? 学院へ帰るしか……」
少々ズレたシルファらしい答えに、思わず苦笑する。
「そういう意味ではありませんよ。もっと先、学院を出てからどうするか、ということです」
「出てからって、学院で就職の手配をしてもらって、働くのだろう? あるいは、ルーフェイアのお母さんに頼んで」
予想通りの答えが返ってくる。
「そうですね。ではどういった場で働くのか、端的に言えばやりたいことはないのですか?」
「え……」
シルファが答えに詰まった。やはり、心配していたとおりだったらしい。
彼女がいま目標にしているのは、タシュアだ。目の前に居る相手に、少しでも追いつくことだけを考えている。
(それが悪いとは言いませんが……)
ただ、将来へはなかなか繋がらない道だ。ひたすら追いかけて、結局何にもならなかった、ということも考えられる。
当然だが、そうなって欲しくはなかった。
「漠然としすぎてわかりづらいですかね。具体例を出しましょうか」
困惑しているシルファに、順に説明していく。
「例えばより専門的な知識や技術が身につけられる、大学へ進学という道もあります。あるいはこのまま学院に残り、士官候補として各国の軍に進むこともできます。もし、やりたいことが見つからなければ、それを探すために各地を見て回るのも、良い経験になると思いますよ」
状況が変わった今、選択肢は多岐にわたる。本人がただ遊んで暮らそうというのでなければ、ほとんどのことでサポートが受けられるはずだ。
(まったく、たいしたお節介ですこと……)
だがそれが、的確に働いているのは事実だった。シュマーで采配を振るっているのは、伊達ではないようだ。
「やりたいことは別に、学院や軍と、関係がなくてもいいのです」
シルファがはっとした表情になった。何か思い当たったらしい。
本来なら、シエラに来ることもなかったシルファ。あんなことさえなければ、財のある両親に守られ危険を冒すこともなく、不自由のない生活ができていただろう。
そして今、そういう生活へ戻る選択肢までも、彼女の目の前にはある。
何しろあの性格のカレアナだ。シルファが本気で望むなら、彼女が追い出された武器商の実家を、強引に買い戻すくらいやってのけるに違いない。
――やや癪に触るが。
だがそれで彼女の望みが叶うなら、タシュアとしては受け入れられる範囲だった。
「目標、夢、野心、言い方はこの際何でも良いでしょう。ともかく、そういうものです」
「……考えたこともないな……」
一途なシルファにとっては、遠大な話に思えたのだろう。どこか遠くを見るような瞳になる。
実際、学院生が最終的な進路を真剣に考え出すのは、最終学年かその前の年くらいだ。まだ少し間があるシルファが実感がないのも、そうおかしなことではない。
それでもタシュアは、そのままにしておけなかった。自分たちが在籍しているのはMeSのシエラ学院、それも本校だ。何があるか分からない。
タシュアはかつて身内と呼べる存在を、目の前であっさりと亡くした。それ故に、「何もないだろう」と楽観視できない。
ここから先は、彼女のトラウマに触ることになるかもしれない。そう思いながらもタシュアは、核心へと話を進めた。